36話
午前二時過ぎ。
作業終了。
「……終わった」
俺は椅子へ身体を預ける。
肩が重い、目も痛い。
完全に作業後だった。
「お疲れ様です」
ソファでスマホを見ていた真琴が顔を上げる。
「今日はちゃんと終わりましたね」
「珍しく」
「褒めてます」
真琴が小さく笑う。
そのまま立ち上がり、カーテンを閉めた。
完全に泊まる流れである。
もう今更だった。
「帰らないんです?」
「この時間ですよ?」
「まあ」
たしかに終電どころの話じゃない。
「ベッド使ってください」
「伊織は?」
「ソファ」
「却下です」
即答だった。
「なんで」
「明日も仕事でしょう」
「真琴もでは?」
「私は寝れます」
「なんだそれ」
意味が分からない。
でも結局押し切られるのもいつもの事だった。
数十分後。
部屋の電気が落ちる。
「……」
静かな部屋。
隣、七瀬真琴。
昔からたまにこうなる。
事務所泊まり、ホテル不足、徹夜作業。
気付けば距離感が壊れた。
「伊織」
「はい?」
「今日は楽しそうでしたね」
「またそれですか」
「最近よく笑います」
「……そんな変わりました?」
「かなり」
真琴は静かな声で答える。
「前はもっと閉じてました」
「……」
返事に困る。
でも否定も出来なかった。
「今は」
真琴が少しだけ笑う。
「人増えましたよね」
「Re:Burstのせいですよ」
「しずくさんも居ますし」
「懐かれてるだけです」
「はいはい」
信じてない顔だ。
その時。
「……寒」
真琴が小さく呟く。
「エアコン下げすぎました?」
「かもですね」
次の瞬間。
もぞ。
「……」
腕に柔らかい感触。
「おい」
「ん……」
真琴が自然に抱きついてきていた。
半分寝てる。
「……真琴」
「……昔からです」
「便利ワードみたいに使うな」
でも本当に昔からだった。
真琴は寝ると距離が近い。
抱き枕感覚なのか。
無意識でくっついてくる。
新人時代、事務所仮眠室でもあった。
ホテルでもあった。
最初は驚いた。
でも今はもう慣れてしまっている。
「……」
真琴は眠そうなまま、俺の肩へ顔を埋めている。
完全に寝る体勢。
「お前なぁ……」
「……落ち着くので」
「起きてるだろそれ」
少し笑う声。
でもすぐ呼吸が静かになる。
本当に寝たらしい。
「……」
俺は小さくため息を吐く。
近い、かなり近い。
でも変に意識する感じではなかった。
長すぎるのだ。
「……」
静かな部屋。
肩へ伝わる体温。
昔から変わらない距離。
だからこそ最近、周囲に色々言われる理由も少し分かる。
「……誤解されるんだよなぁ」
小さく呟く。
でも真琴はもう完全に寝ていた。
抱きついたまま離れる気も無さそうだった。
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