35話
深夜一時。
久瀬伊織宅。
部屋にはPCファンの音だけが響いていた。
モニターには大会用資料。
メンバー表、ルール確認。
Discord通知。
「……眠」
小さく呟きながらコーヒーを飲む。
その時、インターホン。
「はいはい」
もう誰か分かる。
玄関を開ける。
「こんばんは」
七瀬真琴。
コンビニ袋を持っていた。
「また来たんですか」
「伊織が寝ないと思ったので」
「信用が無い」
「ありますよ」
真琴は普通に部屋へ入る。
慣れた動き。
冷蔵庫、テーブル。
「はい」
袋からサンドイッチを渡される。
「食べてください」
「……ありがとうございます」
「今日は?」
「大会関係です」
「あぁ」
真琴が納得したように頷く。
「しずくさん、かなり緊張してましたね」
「ですね」
俺は資料を見ながら返す。
「まあ急でしたし」
「でも嬉しそうでした」
「……みたいですね」
実際。
通話でもかなりテンション高かった。
緊張していたけどそれ以上に楽しそうだった。
数分後。
真琴はソファへ座り、こちらを見ていた。
「伊織」
「はい?」
「面倒見いいですね」
「……誰がです?」
「伊織が」
一瞬、少し止まる。
「別に普通では?」
「普通の人は、個人勢を大会に呼んでフォローしません」
「欠員だったので」
「その後の話です」
静かな声。
「Re:Burstの人達とも繋げて」
「空気作って」
「安心させて」
「かなり気遣ってましたよね」
「……」
言われると少しだけ居心地が悪い。
「まあ」
俺は視線をモニターへ戻す。
「後輩ですし」
「しずくさん?」
「はい」
「懐かれてますよね」
「犬っぽいですよねあの子」
真琴が少し吹き出した。
「それ本人に言ったら怒られますよ」
「でも実際そうじゃないです?」
「分かりますけど」
二人で少し笑う。
静かな空気、昔から変わらない距離感。
「でも」
真琴が小さく続ける。
「最近、伊織かなり変わりましたね」
「……そうです?」
「前なら、ここまで人と関わってないです」
一瞬、返事に迷う。
でも否定は出来なかった。
少し前の俺なら他箱大会なんて出ない。
個人勢と仲良くならない。
コラボもしない。
家に人を泊めたりもしない。
「Re:Burstさん達の影響ですか?」
「……まあ」
それは大きい。
あいつら距離感バグってるから。
巻き込まれる。
「あと」
真琴が少しだけ笑う。
「伊織、元々一人嫌いですし」
「いや好きですよ」
「嘘ですね」
即答だった。
「作業してる時、誰か居る方が機嫌いいです」
「分析されてるなぁ……」
「長いので」
またその言葉。
でも真琴が言うと、妙に納得してしまう。
実際、新人時代からずっと見られている。
今更隠せる事も少ない。
「……」
少し静かになる。
PC画面の光、夜の空気。
真琴はソファでこちらを見ていた。
「伊織」
「はい?」
「最近、楽しそうですよ」
静かな声、優しい言い方だった。
俺は少し考えて。
そして。
「……悪くないですね」
小さく笑う。
真琴も、少しだけ嬉しそうに笑っていた。
もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。




