30話
公式配信終了後。
午後九時半。
「クローー!!」
「逃げるなー!!」
「うわ」
スタッフ席から撤収しようとした瞬間。
捕まった。
星宮アリス、水瀬ルナ、白雪ミオ…
完全包囲である。
「ちょっと話そうか?」
「嫌な空気だなぁ……」
俺は小さくため息を吐いた。
周囲ではスタッフが片付けを始めている。
真琴はその少し後ろで、完全にまた始まったみたいな顔をしていた。
「で?」
俺は諦めて聞く。
「何です?」
「クロさぁ」
アリスが腕を組む。
「そろそろ表出なよ」
「出てるじゃないですか」
「Re:Burstで」
「他箱なんだよなぁ……」
ルナが呆れたように笑った。
「なんで他箱ではあんな楽しそうなのに、自箱だと裏方なの?」
「仕事あるんで」
「仕事作ってるのクロじゃん」
否定出来ない。
実際、自分から裏へ回ってる部分もある。
「でもさ」
ミオが少し不思議そうに言った。
「クロさんって、私達とほぼコラボしてないですよね」
「……あ」
一瞬、全員止まる。
「……」
「……」
「……」
俺も少し考える。
そして。
「……してないですね」
普通に同じ箱なのにほぼ無かった。
大型企画では同じ空間に居る。
でも個人コラボ、ゲーム、雑談。
そういうのは本当に記憶に無い。
「えっ待って」
アリスが目を見開く。
「マジじゃん!?」
「ほんとだ……」
ルナまで驚いている。
「クロ、他箱とは遊ぶのに!?」
「言い方」
「Re:Burstとはめっちゃ遊んでるのに!?」
「最近ですよ」
「でもうちらとは無いよ!?」
それは……そう。
言われて初めて気付いた。
同じ箱なのに普通に喋る。
撮影もするら仕事もする。
でもVtuberとして一緒に配信した事がほぼ無い。
「なんで……?」
ミオが本気で不思議そうだった。
「いや別に嫌いとかじゃなくてですね」
「知ってる!」
「むしろ距離近い方だし」
「でも配信はしないよね」
その通りだった。
気付けば、仕事仲間として完成しすぎていたのかもしれない。
「……なんか」
ルナが笑い始める。
「クロって同僚なんだよね」
「分かる」
アリスも頷く。
「配信者ってより会社の人感ある」
「やめてくれません?」
普通にダメージ入る。
その時。
「伊織」
後ろから真琴。
「確かにコラボしてないですね」
「真琴さんまで?」
「意外でした」
お前も今気付いたのか。
いやでも確かに言われるまで自然すぎて気付かなかった。
「……」
少し考える。
なんでだ?嫌だったわけじゃない。
むしろ気楽だ、気を遣わないし距離も近い。
でも近すぎて逆にコラボするって発想が無かったのかもしれない。
「クロ」
アリスがニヤニヤし始めた。
「じゃあやろうよ」
「何を」
「コラボ!」
「今更?」
「今更!!」
元気だなぁ。
「でも絶対面白いよね」
ルナも笑っている。
「クロ、外だと結構喋るの分かったし」
「最近柔らかいし」
「Re:Burstで鍛えられた?」
「やめろ」
その時、ミオがぽつりと言った。
「……クロさんって、もしかして身内だと逆に照れるタイプです?」
一瞬静かになる。
「……」
「……」
「……」
アリスが吹き出した。
「うわ図星だ!!」
「違います」
「否定遅い!」
「クロそういうとこあるよね」
ルナが楽しそうに笑う。
その横で真琴だけが少し納得したように頷いていた。
「たしかに」
「なんでそっち側なんです?」
「昔からそうなので」
またその言葉だ。
でも真琴だけは、本当に昔から知っている。
俺が近い相手ほど雑に距離を取るタイプなのを。
「……まあ」
俺は少し考えて。
「機会あればやりますよ」
一瞬、空気が止まる。
「……」
「……」
「……え?」
「何です?」
「今クロがコラボするって言った」
「録音した!?」
「切り抜き確定」
「だからお前らさぁ!!」
スタジオに笑い声が響いていた。
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