29話
翌日。
午後七時。
LIVENTO公式チャンネル
【夏の大型箱企画 詳細発表SP】
配信開始直後。
『きたー!!』
『待機してた!』
『夏企画!』
『クロ居ないのほんと?』
コメント欄は既に騒がしかった。
そして。
「はいどうもー!」
星宮アリス。
「LIVENTO夏企画説明配信でーす!」
「いぇーい」
ルナ、ミオ、レイ…
数人が配信画面へ映っている。
そしてその裏側。
「音大丈夫です」
俺はスタッフ席でモニターを確認していた。
「BGM少し下げます」
「了解ー」
完全に裏方。
いつもの事だった。
『クロほんとに居ないんだ』
『寂しい』
『また逃げた?』
『Re:Burstには出るのに!』
コメント欄はまだクロの話題が多い。
アリスが苦笑した。
「いやぁ……」
「皆クロ好きだねぇ」
『居ないの?』
『ほんとに不参加?』
『裏方説』
その瞬間、ルナがぽろっと言った。
「いや居るけどね」
一瞬、空気が止まる。
「……は?」
俺がスタッフ席で振り返る。
コメント欄爆速。
『!?!?!?』
『居るの!?』
『どこ!?』
『クロ!?!?』
アリスも吹き出した。
「あっ言っちゃった」
「いや普通に居るよー」
ルナが悪びれなく続ける。
「今スタッフ席」
「おい」
思わず声が出た。
そしてマイクが拾った。
数秒、沈黙。
コメント欄、爆発。
『今のクロ!?!?』
『いたぁぁぁ!!』
『声した!!』
『裏方いるじゃねぇか!!』
『やっぱり!!』
「最悪だ……」
頭を抱える。
スタッフ席。
真琴が隣で少し笑っていた。
「バレましたね」
「他人事だなぁ……」
すると。
「ほら!」
アリスがカメラ外を指差す。
「クロ居る!」
「映しませんよ!?」
即答。
『草』
『逃げるな』
『スタッフ席のクロ見せろ』
『裏方確定演出』
コメント欄が楽しそうすぎる。
「いやでもさー」
アリスが笑いながら言う。
「クロ、今回ほんと忙しいんだよね」
「編集全部やってるし」
「進行管理もしてるし」
ミオも頷く。
「あとRe:Burstさんの大会もありますし」
『あっ』
『そうだった』
『他箱大会出る男』
『だから不参加なのか』
ルナが普通に補足する。
「クロ、今回完全に裏方側なんだよね」
「参加しない代わりに全部編集してる」
『働きすぎでは?』
『なんでトップVが裏方やってんの』
『やっぱスタッフじゃん』
「違います」
つい反応してしまう。
『喋った!!!』
『クロおる!!!』
『声だけ出演助かる』
コメント欄が加速する。
もう駄目だこれ。
「クロー!」
アリスがニヤニヤしながら振り返る。
「こっち来なよー!」
「嫌です」
「えー」
「編集止まるんで」
『ガチで仕事してて草』
『ほんとに裏方なんだ』
『Re:Burstでは表出てるのに』
それを見ながら真琴が静かにコーヒーを置いた。
「伊織」
「はい?」
「諦めましょう」
「何を」
「もう皆、裏方やってるの知ってます」
「……」
否定出来ない。
最近隠せてない。
普通に。
『クロって結局なんなの?』
コメント欄。
『Vtuber兼スタッフ?』
『万能すぎる』
『でもクロらしい』
「最後やめろ」
思わず笑ってしまう。
その瞬間。
『笑った』
『最近ほんと柔らかい』
『Re:Burst効果だ』
『しずくちゃん効果説』
「やめろって!」
スタジオが笑いに包まれる。
そして結局最後までクロは画面へ映らなかった。
でもずっとそこに居るのは、全員に伝わっていた。
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