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Vtuberになったのに裏方をしてます  作者: 東海林


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3/6

3話

「伊織」


「嫌です」


「まだ何も言ってないんですけど」


昼。LIVENTO会議室。


俺は資料を開きながら、向かいの七瀬真琴を見る。


「箱企画ですよね」


「そうです」


「嫌です」


「今回は演者参加じゃないです」


その一言で、手が止まった。


「……どういう事です?」


真琴が資料をこちらへ滑らせる。


大型箱企画。

タイトルは、


『LIVENTO大運動会』


所属Vtuber総参加型の大型3D配信。

参加人数二十人超え。

視聴者数もかなり出るだろう。

そして。


「人手不足で、3D側のサポート欲しいそうです」


「それ俺に投げます?」


「技術班から指名入りました」


「最悪だ……」


3D配信。

つまり、全身トラッキング。

モーションキャプチャースタジオを使う大型企画だ。


普段の配信なら自宅でも出来る。

だが、全身3Dモデルを動かすとなると話は別。


専用機材、トラッキング。

キャプチャールーム。

どうしても会社設備が必要になる。


そして当然、事故も起きやすい。


「いやスタッフ多いでしょ」


「足りてません」


「でしょうね」


二十人規模の3D企画とか、地獄でしかない。

絶対何か起きる。


断言出来る。


「ちなみに」


真琴が資料をめくる。


「参加メンバー、ほぼ全員クロが来るの知らないです」


「なんで?」


「サプライズです」


「俺にサプライズ要素あります?」


「ありますよ」


あるらしい。


三日後。LIVENTO本社。

3Dスタジオフロア。


普段より遥かに騒がしい。


「ケーブルこっち回して!」


「カメラ三番調整入ります!」


「トラッカー足りない!」


現場という感じだった。

俺はスタッフ用パーカーを羽織りながら、機材ケースを床へ置く。


「伊織、こっち」


「はい」


呼んできたのは技術主任、高槻恒一。

三十一歳、機材オタク。

俺と話が合う数少ない人種である。


「キャプチャー四番、足首ズレる」


「またです?」


「同期ズレ」


「配線?」


「多分」


言いながら、キャプチャールームへ入る。

モニター確認、センサー確認。


「あー……USB死んでますねこれ」


「やっぱ?」


「変えます」


しゃがみ込んで配線を触る。

その時。


「……え?」


後ろから声。

振り向くと白雪ミオが固まっていた。

全身トラッキング用スーツ姿。


完全に呆然としている。


「クロさん……?」


「おはようございます」


「なんで居るんですか!?」


「スタッフです」


「違いますよね!?」


最近毎回これである。

すると、更に別方向から声。


「……え、クロ?」


灰堂蓮だった。

本名、黒崎蓮司。


今日は3Dモデル用のキャプチャースーツを着ている。


「何してんの?」


「仕事です」


「いや演者だろお前」


「今日は裏です」


「意味分かんねぇ……」


その反応が正常だと思う。

登録者百万人のVtuberが、普通に床這って配線直してるのだから。


我ながら何してるんだろうな。


「クローーー!!」


遠くから騒がしい声。

星宮アリスだった。


本名、早乙女有栖。

テンションの塊みたいなVtuber。


「なんでスタッフ側いるの!?」


「人手不足らしいです」


「いや意味分かんないって!」


周囲のVtuber達もざわついていた。


「え、本当にクロさん?」


「配線してる……」


「スタッフパス付けてる……」


なんか珍獣みたいな扱いされてるな。

すると。


「おー、クロ君来てたか」


イベントディレクターの緒方玲が近付いてくる。


「悪い、三番ルーム見て」


「了解です」


「普通に指示されてる……」


誰かが呟いた。

まあ、そうなるか。


三番ルーム、中には天音ルナが居た。

3D衣装状態。


「お、クロ」


「どうしました?」


「トラッキング飛ぶ」


「どこです?」


モニター確認。

足。


「あー、これ反射ですね」


「また?」


「照明強いです」


「最悪」


ルナがため息を吐く。

その隣で、担当マネージャーの神崎結衣が頭を抱えていた。


「今日トラブル多すぎない?」


「3D大型企画ですし」


「慣れてるの怖いんだけど」


「何回かやってるんで」


設定を調整、同期修正。


「はい、戻りました」


「助かるー……」


ルナがその場でへたり込む。


「クロ、スタッフ適性高すぎない?」


「嬉しくないですね」


「なんで演者やってんの?」


「それは……」


一瞬考えて。


「配信好きなんで」


ルナが少しだけ目を丸くした。

でもすぐ笑う。


「……あー、なんか分かる」


その時、スタジオ全体にアナウンスが響いた。


『本番十分前です!』


一気に空気が変わる。

緊張、慌ただしさ、スタッフが走る。


Vtuber達も最終確認へ入る。

俺はモニター席へ座った。


キャプチャー確認。

通信確認、音声確認。


隣に真琴が立つ。


「伊織」


「はい」


「なんだかんだ楽しそうですね」


「……まあ」


否定出来なかった。

こういう空気は嫌いじゃない。


配信が始まる前の緊張感。


全員で一つ作ってる感覚。

そして。


『LIVENTO大運動会、スタートー!!』


歓声、音楽、動き出す3Dモデル達。

その光景を見ながら俺はスタッフ席で、小さく息を吐いた。

もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。

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