25話
朝。
午前九時過ぎ。
「……」
静かな部屋。
カーテンの隙間から光が差し込む。
そして。
「ん……」
ソファの上。
雨音しずくがゆっくり目を開けた。
「……あ」
数秒、状況整理。
クロの家、機材相談、終電逃し、宿泊。
そこまで思い出して。
「やば」
小さく呟く。
完全に泊まってしまった。
しかも企業勢トップクラスの家に。
「……」
しずくがゆっくり周囲を見る。
静か。
その時。
「起きました?」
「ひゃっ」
後ろから声。
七瀬真琴だった。
「お、おはようございます……!」
「おはようございます」
真琴は既に起きていた。
髪を軽くまとめ、普通に朝の準備をしている。
生活感がすごい。
「伊織ならまだ寝てます」
「……クロさん寝るんですね」
「最近は前よりマシです」
真琴が少し苦笑する。
その瞬間、寝室側から小さな物音。
数秒後。
「……眠」
クロ。
かなり眠そうだった。
髪も少し乱れている。
当然だが、配信時のクロとは全然違う。
「おはようございます!」
「おはよう」
まだ完全に起きていない声。
しずくは少しだけ不思議な感覚だった。
配信者、企業勢、人気Vtuber。
でも今のクロは、ただの普通の青年みたいだった。
「送りますよ」
朝食後、玄関前。
「えっ、いいんですか?」
「どうせ駅まで散歩するんで」
本当はそんな予定無い。
でもまあ、泊まった客を放り出すのも違う。
「真琴さんは?」
「私、事務所寄ります」
「了解です」
真琴は普通に鍵を持っていた。
しずくがまたそっちを見る。
「……」
「なんです?」
「いやほんと自然だなって」
「今更ですね」
真琴が少し笑った。
「じゃあ行ってきます」
「はい」
そうして俺としずくは駅へ向かって歩き始めた。
朝の住宅街。
人も少ない。
しずくは隣を歩きながら、小さく伸びをする。
「……なんか夢みたいでした」
「大げさでは?」
「だってクロさん家泊まったんですよ!?」
「まあ」
「しかも真琴さん居るし!」
楽しそうだな。
少し笑ってしまう。
「クロさん」
「はい?」
「ほんとに真琴さんと付き合ってないんです?」
「なんで皆それ聞くんです?」
「だって距離感おかしいですもん」
即答だった。
そんなにか。
「昔からなんで」
「またそれ!」
しずくが笑う。
でも少しだけ真面目な顔になった。
「……羨ましいです」
「ん?」
「そういう人居るの」
一瞬、返事に迷う。
でも。
「まあ、助かってますよ」
それは本音だった。
真琴が居なかったら、多分今より生活終わってる。
寝ない、食べない、作業しすぎる。
普通にある。
「ふふ」
しずくが嬉しそうに笑う。
「クロさんって、意外とちゃんと言葉にしますよね」
「そうです?」
「もっと誤魔化すタイプかと思ってました」
……最近ちょっと素直になってる自覚はある。
多分、Re:Burstの連中のせいだ。
「あと」
しずくが少しニヤニヤしながら言う。
「昨日、一緒に寝てるの見てちょっと安心しました」
「何に?」
「ほんとに何も無さそうだなって」
「失礼だな」
「でも距離近すぎるから!」
それは否定しづらい。
気付けば、昔からあの距離感だった。
だから逆に今更変わらない。
「……クロさん」
「はい?」
「また遊び行っていいですか?」
「機材相談なら」
「やった」
しずくがかなり嬉しそうだった。
単純だな。
でも後輩としては、かなり可愛いタイプかもしれない。
そんな事を少しだけ思った。
そのまま二人は駅までゆっくり歩いていった。
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