22話
LIVENTO機材室。
「うわぁ……」
雨音しずくが完全に目を輝かせていた。
壁沿いに並ぶ機材。
マイク、オーディオインターフェース、ミキサー、防音設備、配信用PC。
「すご……」
「まあ企業なんで」
「いやいやいや!」
しずくが興奮気味に振り返る。
「個人勢だとこんなに揃わないですよ!?」
「それはそう」
俺は適当に棚からマイクを取り出す。
「ちなみに今何使ってるんでしたっけ」
「これです!」
しずくがスマホで写真を見せてくる。
「あー」
一瞬で理解した。
「ゲイン高すぎですね多分」
「えっ」
「あと部屋反響してません?」
「……してます」
「机も軽いですよね」
「……なんで分かるんです?」
「音で」
一瞬。
しずくが止まる。
「……怖」
「失礼だな」
でも実際分かる。
長く触ってると、配信音だけで環境が大体分かる。
特に俺は裏方も――
「伊織」
後ろから声、真琴。
一瞬だけ言葉を止める。
「配線触るなら片付けまでお願いしますね」
「はいはい」
危なかった。
癖で普通に裏方目線が出る。
しずくはそんな事気付かず、機材を見回していた。
「クロさんってほんと詳しいですよねぇ……」
「長いんで」
「いや長いだけじゃないですって!」
しずくがマイクを見ながら言う。
「普通のVtuberってここまで詳しくないですよ!?」
「そうです?」
「もっとふわっとしてます!」
それは否定出来ない。
配信者は機材に強い人も居るが、ここまで裏側知ってる人は少ない。
「これとか」
俺はミキサーを指差す。
「しずくさんの声質ならコンプ弱めでいいと思います」
「……コンプ?」
「あー……」
しまった。
普通に専門用語出た。
「音圧調整みたいな感じです」
「なるほど……?」
多分分かってない。
でも一生懸命聞いている。
真面目だなこの子。
「ちなみに」
しずくが椅子へ座りながら聞いてくる。
「クロさんって、配信環境とか全部自分でやってるんですか?」
「まあ」
「えぇ……」
普通に引かれた。
「だって配線とか難しくないです?」
「慣れです」
「クロさん何でも慣れで済ませる……」
その時。
「おーい」
アリス達が入ってきた。
「まだやってたんだ!」
「見学ですか?」
「気になるじゃん」
ルナも笑っている。
しずくは少し緊張した様子だった。
「どう?」
ミオが聞く。
「クロの機材講座」
「すごいです……」
しずくが真顔で答えた。
「なんか、配信者っていうよりスタッフさんみたい……」
一瞬、空気が止まる。
「……」
「……」
「……」
俺は静かにコーヒーを飲んだ。
真琴が後ろで少しだけ吹き出している。
「えっ?」
しずくが困惑した。
「なんですか!?」
「いや別に」
ルナが笑いを堪えていた。
「クロ、詳しいよねぇ」
「なんでそんな詳しいんです?」
しずくが不思議そうに聞いてくる。
危ない、かなり危ない。
「趣味です」
「絶対違う気がする!」
鋭い。
でも。
「昔から機材好きなんですよ」
それは本当だ。
配信環境作るのは昔から好きだった。
気付けば裏方レベルになっていたけど。
「へぇぇ……」
しずくが感心したように頷く。
すると。
「ちなみに」
アリスがニヤニヤしながら言う。
「クロ、配線ミスとかも秒で見つけるよ」
「え?」
「前に事務所トラブった時、普通に直してた」
「アリス」
「えっダメだった?」
真琴が小さくため息を吐く。
俺は静かに目を閉じた。
しずくがゆっくりこちらを見る。
「……クロさん?」
「はい?」
「ほんとにVtuberです?」
「一応」
「怪しい……」
周囲が笑いに包まれる。
その中で真琴だけが少し楽しそうにこちらを見ていた。
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