20話
数日後。
午後四時。
「……なんで俺なんだろうな」
駅前。
人混みの中を歩きながら、俺――久瀬伊織は小さく呟いた。
スマホ画面、Discord。
相手の名前は。
雨音しずく
個人勢Vtuber。
雑談と歌枠中心。
登録者数は二十万ほど。
そして妙に俺へ懐いている後輩だった。
理由はよく分からない。
本当に気付いたら懐かれていた。
『クロさんって優しいですよね!』
『またゲームしてください!』
『クロさんの配信落ち着くんです!』
みたいな連絡が定期的に来る。
ちなみにコラボ経験はほぼ無い。
それでも懐かれている。
不思議である。
今日はそんな彼女に呼ばれていた。
『新しいマイク買ったんです!』
『聞いてください!』
……配信者らしい理由だった。
数分後
小さなカフェ。
窓際席。
「あっ」
こちらへ気付いた少女が立ち上がる。
茶髪、小柄。
カジュアルなパーカー姿。
「クロさん!」
年齢二十歳。
配信中より少し大人しい。
でも基本テンションは高い。
「どうも」
「来てくれた!」
「呼ばれたんで」
「やったー……」
本当に嬉しそうだった。
なんなんだろうこの子。
俺は向かいへ座る。
「で、新しいマイク?」
「そうです!」
しずくが鞄から箱を取り出す。
配信機材。
「見てください!」
「おお」
「思い切って買いました!」
目がキラキラしている。
完全に機材オタクの顔だ。
「クロさん詳しいじゃないですか!」
「まあ多少は」
実際かなり詳しい。
裏方もやってるから。
でも当然それは言えない。
「設定とかも見て欲しくて!」
「なるほど」
「あと普通に会いたかったです!」
「後半が本音では?」
「バレました?」
しずくが笑う。
素直すぎる。
「というか」
しずくがストローを咥えながら聞いてくる。
「クロさん最近めちゃくちゃ話題ですよね」
「……Re:Burstの件?」
「見ました!」
やっぱり。
「めちゃくちゃ楽しそうでしたよね」
「皆それ言うなぁ……」
「だって本当に楽しそうでした!」
ぐいぐい来る。
距離感近いでも嫌味が無い。
「クロさんってもっと孤高系だと思ってました」
「なんですか孤高系って」
「一人で静かにゲームしてる人!」
「大体合ってる」
「でも思ったよりちゃんと人と遊ぶんだなーって」
そこまで言われると、少し複雑だ。
俺だって別に人付き合い嫌いじゃない。
面倒なだけで。
「……クロさん」
「はい?」
「なんか最近ちょっと柔らかいですよね」
「そんな変わりました?」
「変わりました!」
即答だった。
「前より普通に笑うし!」
「気のせいでは」
「違いますー」
しずくが楽しそうに笑う。
その時、彼女のスマホが震える。
「あ」
画面を見る。
「マネージャーさん?」
「居ませんよ個人勢なんで」
「そっか」
「でも友達です!」
スマホ画面を見せてくる。
どうやら配信者仲間らしい。
「クロさんってほんとマネージャーさんと仲良いですよね」
一瞬止まる。
「……そう見えます?」
「めちゃくちゃ」
即答だった。
「だって普通に家来るんでしょ?」
「なんで知ってるんです?」
「切り抜き」
「最悪だ……」
頭を抱える。
最近切り抜き師が仕事早すぎる。
しずくは楽しそうに笑っていた。
「なんか良いですよね」
「何がです?」
「信頼感ある感じ」
少しだけ言葉に詰まる。
そういう事を、あまり改めて考えた事がない。
真琴は昔から居る。
ただそれだけだ。
でも外から見ると違うらしい。
「……まあ」
俺はコーヒーを飲みながら呟く。
「長い付き合いなんで」
「ふふ」
しずくが少し嬉しそうに笑った。
「クロさんって、そういうの大事にしますよね」
その言葉が妙に静かに残った。
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