19話
深夜三時十四分。
『うわぁぁぁ!!』
『クロさんカバー!!』
「今行きます」
VALORANT。
通話、騒がしい声。
そしてその横のソファ。
七瀬真琴は、普通に寝ていた。
「……」
俺は一瞬だけ視線を向ける。
静かな寝息。
ブランケット。
事務所用に持ち歩いてるやつだ。
いつの間にか自分で被って寝ていたらしい。
『クロさん?』
「……ああ、すみません」
『どうした?』
「いや別に」
視線を戻す。
ゲーム再開。
でも通話側は気付いていた。
『……寝た?』
シュウが小声で言う。
「はい」
『マジで?』
『その状況で普通にゲーム続けてんの?』
「いつもの事なんで」
一瞬、通話が静かになる。
『……いつもの?』
『慣れすぎでは?』
ノアが少し引いていた。
でも実際そうだ。
真琴は昔からこうだった。
作業待ち、配信待機。
気付くと近くで寝てる。
そして俺も特に気にしない。
『いや待って』
ガクが笑う。
『マネージャーが家で寝てる状況に慣れてるのおかしいだろ』
「そうです?」
『そうだよ!!』
『距離感バグってんなぁ……』
そんな事言われても今更感しかない。
『クロさん』
ノアが少し興味深そうに聞いてくる。
『どれくらいの付き合いなんです?』
「新人時代からですね」
『うわ長ぇ』
『ほぼ最初からじゃん』
「まあ」
デビュー前。
まだ配信環境もまともじゃなかった頃。
真琴はずっと隣に居た。
気付けば今も居る。
ただそれだけだ。
『なんかさぁ』
シュウが笑う。
『もうマネージャーってより幼馴染感ある』
「いや別にそんな……」
そこまで言いかけて止まる。
……否定しづらいな。
『止まるなよ』
『心当たりあるじゃん』
通話が笑いに包まれる。
数十分後。
『GGー!!』
『お疲れー!』
『いや楽しかったわ』
ようやくゲーム終了。
時刻は三時四十分。
完全に深夜だった。
「終わった……」
『クロさん明日起きれんの?』
「頑張ります」
『社会人のセリフじゃない』
シュウが笑っている。
俺はヘッドセットを外し、小さく伸びをした。
そして再びソファを見る。
真琴、完全に寝ていた。
「……」
『起こす?』
ガクが聞く。
「いや」
少し考えて。
「このままでいいかなと」
『慣れてんなぁ』
『同棲してる人の会話なんだよ』
「してません」
『否定早かった』
ノアが笑う。
俺は立ち上がり、静かにブランケットを掛け直す。
真琴は起きない。
本当に疲れていたらしい。
『クロさん』
「はい?」
『その人、絶対クロさんの事かなり気に入ってますよね』
一瞬、止まる。
「……まあ長い付き合いなんで」
『それだけで深夜三時に迎え来ないって』
『しかも寝るまで見てるし』
『愛重』
「やめてください」
普通に恥ずかしい。
でも否定しきれないのが困る。
『まあでも』
ガクが少しだけ優しい声で言った。
『良い相方じゃん』
その言葉に俺は少しだけソファを見る。
寝息、静かな部屋。
昔から変わらない距離感。
「……そうですね」
小さく答えた。
その瞬間。
『うわ認めた』
『スクショ』
『保存』
「お前ら本当にさぁ……」
最後まで騒がしい通話だった。
でも不思議と嫌じゃなかった。
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