18話
深夜二時三十八分。
『ナイスゥゥ!!』
『クロさん強っ!?』
『今の反応何!?』
Discord通話は、未だ騒がしかった。
VALORANT。
五戦目。
そして俺は普通に起きていた。
「……もう二時か」
『クロさん明日仕事だろ?』
シュウが笑いながら言う。
「まあ」
『まあじゃねぇ』
『LIVENTO怖くないの?』
「真琴さんには怒られますね」
『あー』
『マネージャーさん』
『絶対怖い』
「別に怖くはないですよ」
ただ、生活管理が妙に上手いだけで。
『でもクロさん』
ノアが少し呆れた声を出す。
『今かなり楽しそうですよね』
「そんな事ないですよ」
『いや分かるって』
『今日ずっと機嫌良い』
ガクまで笑っていた。
『昔のお前っぽいわ』
一瞬だけ、手が止まる。
昔、まだ配信者になる前。
夜通しゲームしていた頃。
たしかに今の空気は、少し近かった。
『というか』
シュウが言う。
『クロさん眠くないの?』
「……ちょっとは」
『寝ろ』
『社会人だろお前』
「Vtuberです」
『説得力無ぇ!』
通話が笑いに包まれる。
その時、Discord通知音。
個人通話。
七瀬真琴。
「……あ」
『来た?』
『マネージャー?』
『絶対怒られるやつ』
嫌な予感しかしない。
俺は小さくため息を吐き、通話を切り替えた。
「はい」
『伊織』
真琴の声。
かなり落ち着いている。
逆に怖い。
「どうしました?」
『まだ起きてますね』
「まあ」
『ゲームしてるんですよね』
「……はい」
数秒沈黙。
『今どこです?』
「家ですけど」
『本当に?』
「なんで疑うんです?」
『前科が多いので』
否定出来ない。
事務所寝落ち、編集室徹夜、ソファ睡眠。
色々やっている。
『今から行きます』
「はい?」
思わず声が出た。
「いや待ってください」
『寝ないですよね?』
「……」
『図星』
「いやでも」
『十分後』
通話が切れた。
「早いんだよなぁ……」
小さく呟く。
『どうした?』
Re:Burst側通話へ戻ると、ガク達がニヤニヤしていた。
「真琴さん来るらしいです」
『うわ』
『マジで管理されてる』
『完全に保護者』
「違います」
『否定弱っ』
その時、玄関チャイム。
「……本当に十分だ」
『早ぇぇ』
俺は席を立つ。
玄関を開ける。
そこには。
「こんばんは」
七瀬真琴。
私服、眠そうな顔。
でも普通に来ていた。
「いや普通に来るんですね」
「家近いので」
「それはそうですけど」
真琴はそのまま部屋へ入り、モニターを見る。
VALORANT画面。
Discord通話中。
「まだやってたんですね」
「まあ」
するとヘッドセット越しに。
『こんばんはー』
『マネージャーさんだ』
『初めましてー』
Re:Burst勢が反応していた。
真琴が少しだけ驚く。
「あ、どうも」
『いつもクロさんお世話になってます』
「こちらこそ」
『いやなんで普通に挨拶してんの!?』
ガクが笑っていた。
なんだこの空気。
『マネージャーさん』
シュウが聞く。
『クロさんって昔からこんな感じなんです?』
「はい」
即答だった。
「放置するとずっとゲームしてます」
「やめてください」
「昔からです」
『うわぁ』
『解像度高ぇ……』
ノアが少し笑う。
『なんか良いですね、その関係』
一瞬だけ静かになる。
俺は少し視線を逸らした。
真琴は普通に俺の机へコンビニ袋を置く。
「夜食」
「……ありがとうございます」
「今日ちゃんとご飯食べました?」
「……」
「図星ですね」
『クロさん子供じゃん』
『完全に世話されてる』
『でもなんか分かる』
通話がまた笑いに包まれる。
その横で真琴は自然に俺の部屋へ馴染んでいた。
それがもう当たり前すぎて俺自身、特に違和感を感じていない事に気付く。
「伊織」
「はい?」
「三時には終わってくださいね」
「努力します」
「終わらないやつですね」
真琴が小さくため息を吐く。
その様子を見ながら。
『……なんかさ』
ガクがぽつりと言った。
『お前らマジで距離感おかしいよな』
「今更?」
『今更だなぁ』
深夜の通話に笑い声が広がっていった。
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