16話
翌日。
午後一時。
LIVENTO事務所。
「……帰りたい」
エレベーター前で、俺は小さく呟いた。
「まだ来たばっかりですよ」
隣で真琴が苦笑している。
「絶対騒がれてますって」
「でしょうね」
他人事みたいに言うなこのマネージャー。
昨日のRe:Burst杯。
結果、優勝。
そしてかなり盛り上がった。
SNS、切り抜き、トレンド。
全部騒がしかった。
特に。
『クロ、思ったより楽しそう』
この感想がやたら多かった。
……なんか複雑である。
「まあ」
真琴がカードキーを通しながら言う。
「諦めましょう」
「嫌だなぁ……」
扉が開く。
事務所へ入る。
そして。
「クロぉぉぉぉ!!!」
「うわっ」
突撃。
星宮アリスだった。
勢いがすごい。
「なんで言わなかったの!?」
「いや聞かれてないですし……」
「マリカ大会出るなら言えよぉ!!」
完全に騒いでいた。
その後ろでは、ルナとミオも居る。
全員ニヤニヤしてる。
嫌な予感しかしない。
「いやぁ」
ルナが笑いながら近付いてくる。
「まさか外部大会で優勝するとは」
「運です」
「まだ言う?」
「言います」
すると。
「クロさん」
ミオが少し目を輝かせていた。
「思ったよりめちゃくちゃ喋るんですね」
「普段も喋ってますよ?」
「でも昨日なんか違いました!」
……それは否定しづらい。
昨日は確かに、かなり気楽だった。
「というか!」
アリスがまた騒ぐ。
「なんでRe:Burstであんな馴染んでんの!?」
「友達いるの初めて知った!」
「失礼だな!?」
「でもガクさんとの距離感すごかったよね」
ルナが笑う。
「昔からの友達感あった」
「まあ昔からなんで」
「えっマジで?」
「デビュー前から知り合いです」
一瞬、全員止まる。
「……へぇ」
ルナが少し驚いた顔をした。
「なんか意外」
「業界入る前からゲーム仲間みたいな感じです」
「クロにゲーム友達居たんだ……」
「お前ら俺を何だと思ってる?」
最近ひどくないか。
「で?」
アリスが机へ身を乗り出してくる。
「次いつ出るの?」
「出ません」
「即答ぁ!」
「いやもう十分でしょ」
「Re:Burst側めっちゃ呼ぶ気だったじゃん!」
それはそう。
大会後の二次会でも言われた。
『次も呼ぶ』
完全に固定枠扱いされていた。
「伊織」
その時、真琴がスマホ画面を見ながら言う。
「もう切り抜き出てます」
「早……」
画面を覗く。
【クロ、外部大会で無双】
【クロ、思ったより陽キャ】
【Re:Burstに馴染みすぎる男】
「やめてくれ……」
頭を抱える。
すると。
「でも」
ルナが少しだけ笑った。
「良かったんじゃない?」
「何がです?」
「楽しそうだった」
その言葉に、少しだけ止まる。
「……まあ」
否定はしなかった。
昨日は普通に楽しかった。
久々だったのだ。
ただゲームして、騒いで、笑う配信。
「なんかさ」
ルナが続ける。
「クロって、普段ちょっと仕事モード強いじゃん」
「そんなつもり無いんですけどね」
「でも昨日は違った」
アリスも頷く。
「なんか普通のゲーム好きな兄ちゃんって感じ!」
「語彙」
「うるさい!」
でも言いたい事は分かる。
昨日は数字とか、空気とか、そういうのをあまり考えていなかった。
ただ遊んでいただけだった。
「……まあでも」
俺は少し考えて。
「たまにはああいうのも悪くないですね」
一瞬、周囲が静かになる。
「……」
「……」
「……」
「なんですか」
「いや」
ルナがニヤついた。
「昨日から素直じゃない?」
「気のせいです」
「絶対違う」
アリスが爆笑していた。
その後、休憩スペース。
俺はコーヒーを飲みながらスマホを見る。
通知が多い、Re:Burst勢からの連絡。
切り抜き、SNS。
そしてDiscord通知。
鬼灯ガク。
『次FPS大会な』
「早いんだよなぁ……」
思わず呟く。
すると後ろから真琴。
「また呼ばれてます?」
「なんで分かるんです?」
「顔」
「そんな分かりやすいです?」
「かなり」
真琴が小さく笑う。
「で、出るんです?」
「……どうでしょうね」
否定しなかった。
その瞬間、真琴が少しだけ目を細めた。
たぶんそれだけで十分伝わった。
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