12話
午後九時十二分。
LIVENTO事務所。
休憩スペース。
「――はぁぁぁ!?」
星宮アリスの叫び声が響いた。
周囲のスタッフが一瞬振り向くレベルで大きい。
「ちょ、アリスさん声……!」
白雪ミオが慌てる。
だがアリスは止まらない。
「なんでクロがRe:Burst杯出てんの!?!?」
机を叩きながら、モニターを指差す。
そこには。
『うわ赤甲羅!?』
『クロそれ避けんの!?』
『今の反応やば』
『ガチ勢じゃん』
Re:Burst杯の配信画面。
そして普通に走っているクロ。
「いや待って待って!」
アリスが混乱したまま振り返る。
「クロってコラボしない人じゃん!」
「してますね……」
ルナが苦笑していた。
ソファでスマホを見ながら配信視聴中。
ちなみにLIVENTO所属Vの大半が、今この配信を見ていた。
理由?
そりゃ気になるからだ。
登録者百万人、ソロ特化。
箱企画すら避ける男。
そのクロが他箱大会へ普通に出ている。
事件である。
「しかも馴染んでる……」
ミオが呆然としていた。
配信内では。
『クロお前ライン取りおかしくね!?』
『なんでそんな速いんだよ!』
「感覚です」
『一番信用ならねぇ!』
通話が笑いに包まれている。
……普通に楽しそうだった。
「なんで言わなかったのあいつ!」
アリスが騒ぐ。
「絶対面白いやつじゃん!」
「まあ、伊織ですし」
そう言ったのは七瀬真琴だった。
騒ぐ周囲と違って、かなり落ち着いている。
「真琴知ってたの!?」
「聞いてました」
「なんで教えてくれないの!?」
「面白そうだったので」
「うわこのマネージャー楽しんでる!!」
半分くらいは否定出来ない。
真琴は静かにコーヒーを飲みながら、モニターを見る。
そこには。
『クロさんマジで強くない!?』
『いや普通に上位だぞ!?』
『ソロ勢ってなんでゲーム強いんだよ』
「普通ですよ」
『信用出来ねぇぇぇ!!』
珍しく、本当に珍しく。
クロがかなり楽しそうに笑っていた。
それを見て真琴は少しだけ目を細める。
「……珍しいですね」
「え?」
ミオが振り向く。
「伊織、あんな感じで長時間通話するの」
「確かに……」
LIVENTO内でも少ない。
クロは雑談力こそ高いが、複数人通話へ積極的に入るタイプではない。
だから今の空気感は、かなり珍しかった。
「なんか」
ルナが小さく笑う。
「他箱だとちょっと違うね、クロ」
「違います?」
「いつもより自然体というか」
普段のクロは、配信者だ。
空気を作る。
コメントを拾う。
間を考える。
でも今はもっと普通にゲームしていた。
『うわ落ちたぁぁ!!』
『ざまぁ!!』
『笑うな!』
『クロさん煽ります?』
「いや別に」
『でも今笑ってたよな!?』
「まあちょっと」
通話がまた騒がしくなる。
アリスが机へ突っ伏した。
「なんか悔しい……」
「何がです?」
「LIVENTOだとあんまり見れないクロじゃんこれ!」
それは確かにそうだった。
すると真琴のスマホが震える。
画面を見る。
送信者は――クロ。
『そっち騒いでます?』
真琴が少し吹き出した。
「……見えてるんですかね」
「絶対想像してるでしょ」
ルナが笑う。
真琴は短く返信した。
『かなり』
数秒後。
『でしょうね』
即レスだった。
休憩スペースに笑いが広がる。
そして配信内では。
『おいクロぉ!!』
『なんでそこでバナナ置くんだよ!!』
「そこ通ると思ったんで」
『性格悪っ!!』
『クロってこんな笑うんだ……』
コメント欄がそんな言葉で埋まり始めていた。
たぶん今まで知られていなかっただけだ。
ソロ配信では見えない部分。
他人とゲームしてる時のクロ。
それをLIVENTOのメンバー達も、少し新鮮な気持ちで見ていた
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