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Vtuberになったのに裏方をしてます  作者: 東海林


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10/30

10話

午後十一時。

LIVENTO編集室。


静かな部屋に、キーボード音だけが響いていた。

モニターには動画編集ソフト。

タイムライン、案件確認。

そして俺――久瀬伊織は、普通に眠かった。


「……終わらん」


小さく呟きながら、肩を回す。

今日は配信無し。


珍しくゲリラもしていない。

理由は単純で、普通に疲れていたからだ。

Re:Burstへ行った後、そのまま事務所へ戻って作業。


気付けばこの時間、いつも通りと言えば、いつも通りだった。

その時、編集室の扉が開く。


「伊織」


七瀬真琴だった。

片手にコンビニ袋。

もう片方に資料。


「まだやってたんですね」


「そっちこそ」


「私は仕事です」


「俺もです」


「演者なんですけどね」


「最近よく言われるなそれ」


真琴が苦笑しながら隣へ座る。

コンビニ袋が机に置かれる。


「晩御飯」


「ありがとうございます」


「また忘れてましたね?」


「……途中までは覚えてました」


「最近毎回同じ事言ってません?」


否定出来ない。

袋からおにぎりを取り出す。

ようやく今日初のまともな食事だった。


「そういえば」


真琴が資料をめくりながら言う。


「今日、どこ行ってたんです?」


一瞬だけ手が止まる。

ああ。


そういえば詳しく言ってなかった。


「Re:Burstです」


「……え?」


真琴が顔を上げた。


「珍しいですね」


「ガクに呼ばれて」


「あー……鬼灯さん」


知ってはいる。

業界人だし、交流もある。

でも。


「普通に遊びです?」


「まあ半分くらい」


「半分?」


「あと頼まれ事」


真琴が少しだけ嫌な顔をした。


「嫌な予感します」


「俺もしました」


俺はコーヒーを飲みながら続ける。


「マリカ大会出ろって」


数秒。

編集室が静かになる。


「……はい?」


「マリカ大会」


「伊織が?」


「俺が」


「外部で?」


「そう」


真琴が完全に止まった。

珍しい、本当に珍しい。


数秒後。


「……断りました?」


「借りあるんですよね」


「あー……」


納得した顔。

鬼灯ガク。


あいつは昔、かなり助けてくれた。

だから強く断りづらい。


「で、出るんです?」


「多分」


「……へぇ」


真琴が少しだけ目を細める。


「意外です」


「自分でもそう思います」


他箱コラボ。

しかも大会。


俺が一番避けてきたタイプだ。

なのに。


「そんな気分だったんですかね」


ぽつりと漏れる。

真琴は少し黙って。


「楽しそうでした?」


「……まあ」


否定はしなかった。

Re:Burstの空気は、LIVENTOとまた違う。

ゲーム寄り、大会文化。

騒がしい感じ。

でも嫌じゃなかった。


「ガクと居ると、なんか断れないんですよね」


「知ってます」


「昔からですし」


「知ってます」


真琴が小さく笑う。

その笑い方が少し柔らかかった。


「でも」


真琴がこちらを見る。


「LIVENTO側にはまだ言ってないんですね」


「言ってません」


「なんでです?」


「面倒そう」


「まあ……」


否定しなかった。

絶対騒がれる。

特にアリス辺り。


想像出来る。


「ちなみに」


真琴が何かを思い出したように言う。


「その大会、他の参加者知ってるんです?」


「クロが出るのは?」


「はい」


「知らないと思います」


「サプライズ枠ですか」


「多分」


「絶対荒れますね」


「嫌だなぁ……」


頭を抱えた。

配信者として普通に出るの、本当に久しぶりかもしれない。


しかも外部。

しかも大会。


「……伊織」


「はい?」


「楽しみですか?」


一瞬考える。

でも答えはすぐ出た。


「ちょっとだけ」


そう言うと真琴が少しだけ驚いた顔をした。

それから。


「じゃあ」


小さく笑った。


「頑張ってください、クロさん」


その呼び方が妙に珍しくて俺は少しだけ、視線を逸らした。


もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。

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