とりあえず家庭教師内定?
「ようこそ、勇者の家へ。歓迎させてもらうよ、†邪ナル雷光†カナタ殿」
ティリアに連れられた俺は、街の中にある勇者の本宅――豪勢な屋敷の中に通されていた。そして応接間に着くなり、先に座っていた包帯塗れの勇者から言われたのがそんな挨拶だった。
いきなりナイフで胸を刺された気分である。
「うお……お、お招きいただき、ありがとうございます。勇者シレネさん。ただ、出来れば、前についた名前は避けて貰えると……」
「ああ、すまないね。私を竜の王から救い、18年間ランキング1位を取り続けた伝説を目の前にしたと思うと、私も嬉しくて。今お茶を入れよう。ティリアも飲むだろう」
「はい! 頂きます、お母さま!」
シレネは明るく笑いながら、お茶を入れて、向かいに座る俺とティリアに差し出して来た。
様子を見るにかなり元気そうだ。
回復魔法も使ったのだろうが、流石は魔王を倒した勇者張本人である。
「ご自分でお茶を入れられるくらいには回復していて良かったです。てっきりそちらの壁の向こうにいる2人が手伝いに来るかと思いましたが」
これだけの豪勢な家なのだから使用人やメイドを入れているのも当然だと思ったので、勇者の背後、壁の裏にいる二名の気配を察して言うと、シレネは目を見開いた。
「……驚いた……というのも違うね。流石は1位。気配察知まで当然のように出来るんだね。結構ウチの壁は厚いし、護衛の二人もシノビの家系で、気配を断つのは得意なんだけども」
どうやら使用人ですらなかったらしい。
ティリアも驚いているようで、
「凄いです。私も、最初に護衛の方々が来た時、目の前に現れて貰うまで気付けなかったのに……!」
「……なんだかすみません。変に家の中を探ったみたいで」
「いやいや、構わないとも。彼らは、私がケガをしたということもあって、念のためウチの国の女王様が派遣してくれた優秀な人たちだよ。元勇者の私に有難い話だけどね。だから警戒しなくても大丈夫さ」
そう言ってお茶を飲んで一息入れた後、シレネはこちらの目を見て話を切り出して来た。
「それで、話は娘から聞いているかな?」
「はい。勇者の家庭教師、でしたっけ? なんだか、そういう仕事がある、という事自体は、冒険者の間でちょっと話題に出たり、噂になったりしていましたが」
「ほう。始めたばかりだけど、知名度はそこそこあるみたいだね。そうなんだよ。ティリアだけじゃなくてね、見込みある戦士や英雄の子達を集めて、勇者として育てる為に、戦闘訓練や魔法教育をしてくれる人を冒険者の中から募っているのさ。それが勇者の家庭教師。――ただ……人はそこまで集まっていないから、私が主に面倒を見ているんだけどね」
「そうなんですか?」
「噂でも聞いているかもしれないけどね。育成というのは、貢献度に反映されない。ランキングで評価されない項目なんだよ。この国のランキングシステムは魔物を倒すなどの貢献度によって判定されるからさ」
「確かにそうですね」
貢献度は、主に、魔物の退治、ギルド依頼をクリア、ダンジョンや魔物の巣などの危険地域のマッピング、踏破、取り潰し、などなど様々なもので判定される。
冒険者には、証にリンクする紋章が刻まれており、事をなすと自動的に報告されるのだ。
ただ、それらはすべて、行動した本人にしか貢献度が入らない。
その仕組み上、育成、というのは、冒険者ランキングに何らメリットを及ぼすことは出来ないのだ。
たとえ育て上げた子が、何かに貢献したとしても、それはその子のランキングのポイントになる。
「だからこそ、引き受けてくれる冒険者は少なくてね。勇者の育て親、みたいな名誉目当てに来るには来るんだが、並の実力じゃ追い返してしまうような気が強くて実力ある子が居るもんだから尚更さ」
シレネは朗らかに、ちょっとだけ仕方なさそうに笑う。
「今は、私ともう一人が教えているんだが。私はこの通り怪我で、もう一人は出張でね。教える役割の者がいない。だから君に頼もうということになったんだよ。ティリアとも相談してね」
「はい! カナタさんなら、私たちをさらに強くしてくれるんじゃないかと思ったんです!」
ティリアは凄く元気に言ってくる。
見込んでくれたのは嬉しい事ではあるが、そもそも気になったことがある。
「そもそも、なんですが。なぜ勇者を育てようとしているんですか? 魔王はもう倒したでしょう?」
「それはもちろん、まだ倒すべき邪悪な相手が残っているからさ。例えば、いずれ来ると預言された邪神。人に仇なす魔物や特殊個体。それに、治安を乱す悪党の組織は、悲しいかなどんどん湧いてくる。君が倒した『竜の王』のようなものもね」
俺は、ランキングの貢献目的で、竜の王などの強い魔物を狙って倒してはいる。だから、なんとなく分かる。
強い敵は、いなくなることは無いのだ、と。
「それらを相手取る時、実力がいるし、勇者という屋台骨があるとなお安心だ。私とこの国の女王が相談し合った結果、お互いに私財を投じて、育てる機関を作ろう、となった訳さ」
セレネの言っている事は、なんとなく分かる。
「それで、どうだろう。勇者の家庭教師、引き受けてくれるかい?」
だが、俺としては正直、かなり悩んでいて、
「俺、人にモノを教えた経験なんてないですし、教えられることがそもそもあるかどうか……」
「誰でも最初は未経験なものさ。それにカナタ殿はアレだけ強かった。戦闘を教えられる可能性は高い。勿論、名選手が名教師になるかは、分からない、というのは前提な上でね」
それと、とセレネは俺の腰元――冒険者証の方を指示した。
「すまないがその名を出させてもらうが、話に聞く限り、†邪ナル雷光†は、パーティーを組まずに一人で活動しているそうだね」
「う……ま、まあ、そうですが」
名前がアレなためパーティーなど組めるはずがない。組んだ瞬間バレるのだ。
……パーティーを組んでいたとしても、報酬受け取りは一人ひとり個別だから。代わりに報酬を受け取ってもらう、なんてことも出来なかったからな……。
払われるのが大金だから、仕方がないことなのだけど。ともあれ、最初に2年は置いておいて、少なくとも十数年は一人でやってきた。
そう伝えると、うむ、とセレネは頷いて、
「であれば、一人で戦い続けるのに必要な、心構え、継戦能力に関しては非常に詳しく秀でていると見えるよ」
言われ、確かに、と俺も思った。
「そう、ですね。ケガをしにくい戦い方ではあると思います」
何せランキングポイントを稼ぎ続けないといけないのだ。ケガをしてしまって長期離脱、となっては、1位の保持が出来なくなる。
ランキング集計は1週間ごとに行われるので、全治一週間以上の大怪我=1位陥落なのだ。
だからそう言うと、ティリアが嬉しそうに拍手をしてきた。
「やっぱり! 私も見てましたよ! あの竜の王との戦いでも、殆ど傷を負ってらっしゃらなかったのですから。その心構えがあったからなのですね!」
そして、セレネも笑みを浮かべ、
「最後まで立ち続けるのは勇者にとって必要な素養だ。だから、教えてもらえると助かるものなんだよ」
なるほど。確かに魔王との戦いでも、勇者が最後まで立っていたから、心も折れず、士気も維持された、と国軍の人たちは言っていた。
みんなの希望を束ねる者として、必須なのだろう。
自分はケガをしないようにするだけで意味合いは違うかもしれないが、心持や、トレーニング方法位なら教えられるかもしれない。
そう思っていると、
「ちなみに給料は、最低でも月30万ゴールドくらいは出るし、賞与もある。住み込みも出来る家賃も要らないよ」
畳みかけるようにセレネが言ってきた。
……正直、魅力的だ……。
月30万は、一般的な生活をするには多すぎる位のお金だ。
財布の薄さ、という直面した問題をすんなり解決できるくらい魅力がある。であれば、
「……俺の目的として、20年間ランキング1位を取り続けた際に出る、特別報酬を狙っている、というのがあります。そのランキングの貢献度を取るための行動は続けますが、その合間でなら出来る範囲であれば……」
と、おずおずと条件交渉をしてみると、セレネは即決で頷いた。
「よし。では決まりだね。ティリアもそれでいいね」
「勿論です! カナタさんにご教授して頂けるのであれば、それ以上の事はありませんから!」
ティリアも嬉しそうに言ってきた。
こうまで喜ばれてしまうと、ちょっとは頑張ろうという気にはなる。そう思ったところで、ふと、言うべき事を思い出した。
「あ、そうだ。家庭教師をやるのは良いのですが、俺の素性を黙っていてもらう事はできますか? 流石にこの冒険者名をあかすのはちょっと……となっているのですが」
そう言ったら、
「「……」」
二人揃って沈黙した。
「えっと、何か、無理なことでも?
「構わないが……さっきも言った通り、気の強い子がいてね。何もないと多分、襲い掛かってくると思うんだ」
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そして、続きは夜までに更新予定……!




