秀頼の覚悟ー浪人とキリシタン
慶長10年(1605)徳川家康は将軍の地位について二年もたたない内に嫡男の秀忠に譲り、大御所となりました。
大坂方では徳川家康の天下はあくまでも秀頼が成長するまでの中継ぎと考えている人が少なくなく、その人々にとっては衝撃でした。
「そうか、じいはもうそこまで覚悟を決めたのだな」
「秀頼様、と、おっしゃいますと?」
「じいは徳川の天下が続くことを万民に示すことで平和をもたらそうとしているのじゃ」
「ですが、今も関ヶ原で主家を失った浪人どもが不穏な動きをしております。彼らは、わが豊臣家を頼ってまいりましょう」
「…そうじゃな…その時こそ、母上と私が滅びるときじゃ」
「北政所様はじめ、何人かの方々は徳川様に恭順の意を示し、大阪城を出ることを勧めております。さすれば内府殿も秀頼様を疎かには扱いますまい。浪人どものために秀頼様や淀の方様が犠牲になることはございません」
「…浪人ばかりではない。キリシタンたちもじゃ。じいは国を閉め、ゼウスの教えとやらを禁止するつもりじゃ。かって父上はスペインやポルトガルにわが国の武威を見せるために唐入りを決行なさった。じいは信仰そのものを禁止してしまうつもりじゃ。国を守るためにな。だが、私は浪人もキリシタンも見捨てることなどできない。重成、そんな私をバカだと思うか」
「秀頼様がバカなら、この重成もまた、バカでございます」
「はは…本当だな」
もし、来世というものがあるなら、今度は豊太閤の子などではなく平凡な男として伯父上のように生きたい。
「秀頼」
「伯父上、来てらしたのですか」
「ああ…小夜殿から、また、着物を預かってきたよ」
「長浜の方では皆、お元気ですか??百吉ちゃんは大きくなったでしょうね」
「百吉はわんぱくでな。近所の悪ガキどもを引き連れて遊びまわってるよ」
「そうですか?羨ましいな」
「…………」
秀頼の覚悟を聞いて万吉は思っていました。
自分は父の言葉を胸に生きてきた。だが、それでよかったのか。今、一度武士に戻って戦うべきではないのか。
秀頼の側を離れて、そのようなことを考えていた万吉に声をかけたのは織田常真でした。




