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シュガードール×エンドロール  作者: nami
シオン戦
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47/63

46 : お見舞いへ

 基地内にある療養所は、人間たちの世界にある「病院」を模して造られている。尤も、マザーボードにある物の殆どは、建物から日用品に至るまで、人間たちが作り出した物の輪郭を準えているのだけれど。


 療養所──即ち私たちAIにとっての病院は、ただ清潔であることだけを念頭に置いて設計されたかのような、非常に無機質な外観である。角張った巨大な白い箱のような建物からは、威圧感さえ感じられる。

 これが私たちAIに元から組み込まれている「病院」のイメージである。人間たちが創ったものの輪郭を正確に辿ることは出来ても、新たなものは生み出せない。マザーボードは、AIの哀しい運命を打ち破ろうとして築き上げられた世界なのだ。

 

「フラン、どうしたの?」

 その声で我に返った。私よりも数歩進んだ所から、ユリサが不思議そうな顔をしてこちらを見ている。私は療養所の入り口の前で足を止めていた。

「う、ううん!ごめん、なんでもない!」

そう言うなり、私はユリサの元へ駆け寄った。私たちは再び肩を並べて療養所の中へと歩き出した。


「もう、大丈夫?これからお見舞いに行くって言うのに、フランの方が心配されちゃうんじゃないの?」

ユリサはそう言って、冗談っぽく笑った。ユリサは既に訓練にも参加していて、シオンとの戦闘の際に負った怪我も殆ど回復しているようだ。

「あはは、ほんとにそうだよねー。しっかりしなきゃ!」

私は空いた左手で、自らの頬をペチンと叩いた。痛みにも及ばない、機械的なヒリヒリとした感覚が伝播してすぐに消えた。


 もう片方の手には、基地内にあるフラワーショップで買った花束を抱えている。オレンジや黄色を基調とした色鮮やかな花束は、抱えているだけでも気持ちが明るくなるような気がする。花の甘い香りは機械の体内へと染み入って、少し擽ったい。

 

 例の事件があって以降、シオンは厳重な監視の下で、未だ療養所の一室に隔離されているんだそうだ。当然と言えば当然のことなのかもしれない。

 以前、総司令官にシオンの具合はどうかと聞いたことがある。総司令官は、既に何度かシオンの容態を確認しに行っていたようだから。


「コアに別状はない。だが、あの夜の様子を見たおまえになら想像はつくと思うが……ウイルスの侵攻が酷い。以前の記憶は完全に失われていると思われる。その上、会話も困難な状態だ」


 そう言った総司令官の表情は深刻そのもので、目には全てを諦めたかのような哀しみの色が滲んでいた。それでも私はその目の中に、彼の言葉の中に、欠片ほどの希望でもいいから残ってはいないかと、精一杯明るい声で答えてみせた。


「……でも、シオンは無事なんですよね!コアに別状がないなら、リハビリをすればいつかは会話もできるようになるだろうし、いずれは記憶も回復するかもしれません」

言ってから、最後の言葉は自分自身への希望のようにも感じた。

「ああ、そうだな……」

 総司令官は視線を上げ、弱々しくも微笑んでみせてくれた。

「私、今度シオンのお見舞いに行きます!そうだ、お花も持って行こう!来週から面会が許可されるんですよね?」

「ああ、そうだ。是非様子を見に行ってやってほしい」

「もちろんです!ユリサと一緒に行ってきます!」


──そうして、今日に至るというわけだ。



 療養所は、本館と分館に分かれている。シオンは分館の地下2階にいると、事前に総司令官から聞いていた。

 入り口を入ってすぐの所にある受付で、シオンとの面会に来た旨を伝えると、受付のアンドロイドの顔に痙攣のような動揺の色が走った。その女性型アンドロイドはまだ業務に慣れていないのか、きょろきょろと周囲を見回し、自信なさげな声で恐々と言った。


「あの……すみませんが、許可されている方でないとそちらへはお通し出来ないんですが……失礼ですが、どちらの所属の方ですか?」

 私とユリサは顔を見合わせた。総司令官から面会の許可は出ていると聞いていたのに……


「ヴァイスリッター、司令長官のフランです。ヴォルフガング総司令官からの許可を得て来ました。こちらは同じくヴァイスリッター、大隊長のユリサです」

 受付を担当したアンドロイドは、少しの間ぽかんとした様子で私たちを見ていたが、側を通りかかった先輩らしきアンドロイドに小声でなにかを耳打ちされ、途端にはっとした表情を浮かべた。

「すみません!大変失礼いたしました!どうぞこちらのカードを持って、お進みください!あ、分館へは5階の渡り廊下からお入り頂くよう、お願いいたします!」




 分館へと続く渡り廊下は長く、まるで白蛇の腹の中にいるかのようだ。本館は患者も職員も含め、多くのAIが行き交っていて騒がしかったが、渡り廊下へ足を踏み入れてから、それまでの喧騒がぱったりと遮られてしまった。まだ誰ともすれ違ってさえいない。


「いやー、焦ったね。まさかお花まで持って来て会えないの!?って」

「仕方ないわよ。分館は本館の何倍も警備が厳重だもの。それに、シオンに関してはウイルスの感染者なんだから……とりわけ、ね」

「分館へ行っても、会わせてもらえるのかなぁ?なんだか、ちょっと不安になってきた」

「きっと、受付から連絡を入れてくれているわよ。じゃなきゃ、私たちを通したりしないと思うわ」

「そっか。たしかにそうだね」


 右手に抱えた花束を左手に持ち替えた。長い廊下の先に、どこか物々しい雰囲気を纏う無機質な扉が見え始めた。

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