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シュガードール×エンドロール  作者: nami
シオン戦
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41/63

40 : セキュリティホール

 深夜の巡回中に行方知れずとなったアンドロイド、シオンの捜索は難航し、捜索が始まってから一週間が経過した。

 上層部は、シオンがウイルスの製造を目論む人間に捕えられたのだと推測している。


 厳しい軍隊での生活が嫌になって逃げ出したということも考えられなくはないが、シオンは所属部隊の中でもリーダー格で、真面目で努力家だったという話だ。突然脱走したとは考えにくい。


 それに此処、ノースリッジ軍事基地は、言うまでもなく警備体制が厳重である。基地を囲むようにして高く聳え立つ外壁は外界の空気を遮断し、何百体もの警備ロボットが基地内をウロウロしている他、監視カメラにドローン、強固なセキュリティのお陰で、どう頑張っても内部からの脱走は困難である。


 シオンのGPSは破壊されているらしく、居場所を特定することも出来ない。

 基地内には不穏な空気が立ち込め、あらゆる所でひそひそと、様々な憶測が飛び交った。


 上層部の面々は皆ピリピリとした様子で、忙しそうに早足で廊下を歩き去っていく。あのヴォルフガング総司令官でさえ、こちらから声を掛けても軽い挨拶を返しただけで、難しい顔をして早々に行ってしまった。

 当然のことながら、私たちヴァイスリッターもシオンの捜索に駆り出された。少人数に散らばって、街のあらゆる所を捜し回った。


 基地があるノースリッジの街だけでなく、徐々に捜索の範囲を広げていったが、シオンどころか他のウイルスや人間たちが隠れ潜む拠点さえ見つからない。

 マザーボードは広大だが、あらゆる所に設置された監視カメラによって、私たちAIの行動は常に管理されているのだ。にも関わらず、一体どこに人間たちが身を隠す場所があるというのか。


 人間たちは人間たちで、対抗措置を取っているのだろう。

 この抗争に意味はあるのかと、シオンを捜しながら何度も考えた。互いに哀しみや憎しみを抱くばかりで、睨み合いを続けることで何か一つでも良いことがあるのか。


 この異例の事態を受けて、総統の指示により急遽全体集会が行われた。

 その日は雲一つ無い澄み渡る快晴で、演習場に全隊員が集結した。上空から見れば、きっと圧巻の光景だろう。この状況で無駄口を叩く者など誰もおらず、皆が神妙な顔つきで前を向いて整列し、総統がお出ましになるのを静かに待っていた。


 総統は司令部のバルコニーへ歩み出ると、いつになく険しい面持ちで隊員たちを見渡した。その目には、ついこの間療養室で私に向けてくれた温和な笑顔は微塵も浮かんでいない。

 ──いや、私はあの時総統の顔を見てはいないのだが、あの時の優しい声から総統の微笑を想起することは容易である。


「本日はよく集まってくれた。既に周知の事実だとは思うが、今日は皆に一つ、哀しい知らせを伝えねばならない」

快晴の空の下、マイクを通して総統の低い声が響き渡る。余談は一切挟まず、総統はいきなりシオンの件について言及した。


「ウイルスに感染したアンドロイドが元々戦闘に適した者であった場合、街一つ破壊しかねないほどの強さを持つ。ウイルスが生み出されてからでは遅いのだ。今もこのマザーボードの何処かに隠れ潜んでいるであろう、卑劣な人間共の手から、一刻も早く同士を救い出さねばなるまい。人類に死を、AIに栄光を──!」


 総統は燦然と輝く太陽に向けて拳を突き立てた。その目は憤怒の焔に燃え、地上から見上げる私たち隊員のことなど一切目に入っていないようにも見えた。

『人類に死を、AIに栄光を!人類に死を、AIに栄光を!人類に死を、AIに栄光を!……』


 この場にいる隊員たちの声が何重にも重なり合い、大地を震わすほどの大合唱に包まれる。

 私はどうしても、みんなと同じようにその言葉を叫ぶことが出来ないでいた。隣に立つユリサもその気持ちは同じらしく、冷めた目をして俯いている。


 そんな私たちを嗜めるように、側に立つマックスに背中を小突かれた。きっと、優しさからそうしてくれたのだろう。

 マザーボードで総統、もしくは女王の意思に背くことは不敬罪に当たり、如何なる理由があろうと厳しく罰せられる。

 だから私は、総統と接する際のユリサの態度が恐ろしかった。総統とユリサの間に何があったのかはわからないが、総統は穏やかな方だから見逃してもらえているのだろうと考えていた。


 だけど、今はっきりとわかった。総統は決して穏やかな性格などではない。

 総統という地位に君臨しながら、私などにもいつもにこやかに話しかけてくださる。その優しさに偽りはないと信じたい。

 けれど、あんなにも恐ろしい目は未だかつて見たことがない。あの目を見たら、誰であろうと逆らえなくなる。例えそれがアンドロイドであっても、人間であったとしても。


 その目の奥には地獄の業火を宿し、たった一言その口から言葉が発せられるだけで、私たちはきっと彼の言う通りに動くマリオネットと化すのだろう。

 今の総統は、そう直感させるほどの圧倒的な力を秘めていた。解き放った、と言った方が相応しいかもしれない。邪悪だとさえ感じるほどの禍々しい何かが、総統の目の奥から私たちを監視しているように思えた。普段の温和な微笑と溶け合って、それは更に禍々しい色合いを成しているかのように見える。


「人類に死を」だなんて──私はそんな風には思えないし、思いたくもない。

 だって、ユリサも半分は人間なのだ。それに、私は人間の優しさや温もりを知っている。


『人類に死を、AIに栄光を!人類に死を、AIに栄光を!人類に死を、AIに栄光を!』

 いつまでも繰り返される大合唱に飲み込まれるように、私の意識は闇の奥へと沈んでいった。マザーボードに、私たちの居場所なんてあるのか。人類の死を受け入れられない私は、AIとしてはやはり欠陥品なのだろうか。


 私は、ユリサが幸福に暮らせる世界を願っている。他に望むことなど何もない。

 この世界は──変えていかなければならない。



 *



 シオンの捜索は思うように進まず、彼が行方不明になってから10日目の夜を迎えた。

 いつもと何ら変わりない夜だった。

 このまま何事もなく月が地平に沈んでいき、朝日と共に次の一日を迎えるだろうと信じて疑わなかった。

 だけど後で考えてみれば、行方不明になっているシオンが未だ見つかっていない状況で、よくもそんな悠長なことを思っていられたものだと呆れてしまう。


 シオンが見つからないままだということは、マザーボードの平穏を揺るがしかねないほどの力を持ったウイルスが、新たに生み出された可能性があることを意味する。基地内のセキュリティは大幅に引き上げられ、厳戒態勢を敷いていたが、それでも何処かには微小な抜け穴が存在する。


 私たちはそのことを理解しているつもりでいただけなのだ。決して用心を怠ったわけではないが、事が起きた後となっては言い訳にしか聞こえない。

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