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シュガードール×エンドロール  作者: nami
対ウイルス初戦
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34/63

33 : 一人と一体

 マックス率いる第二部隊の隊員たちに続き、私とユリサはノースリッジの街を歩いた。

 マザーボードの中心であるこの都市に軍事基地や王城などの重要な施設が集中している為か、多くのAIが縦横無尽に行き交っている。

 みんな自分の仕事で忙しそうだ。きっと、彼らが担う仕事の一つ一つが、マザーボードを平穏に動かす為の基盤となっているのだろう。


 もちろん、私たち軍隊──ヴァイスリッターの任務だってそうだ。私たちはウイルスからAI達を守る為、こうして街を巡回している。

 そう思うと、こんな私でもみんなの役に立てているような気がして、なんだか嬉しくなる。

 とは言え、私が訓練を終えて実務に参加するのは今日が初めてだ。ウイルスから街を守り、そしてウイルスに感染してしまったアンドロイドを救い出す──それが出来てこそ、初めてみんなの役に立てたと言えるだろう。


「あっ!見て!ヴァイスリッター!」

「ほんとだ!かっこいい!」

 声が聞こえた方に視線を向けると、きらきらと目を輝かせながら私たちの方を見つめるアンドロイドたちの姿があった。

 高潔な白き軍服を身に纏ったヴァイスリッターが、凛々しい面持ちで列になって歩いているところは、同じくヴァイスリッターである私が見ても美しく眩いものである。

 自分がヴァイスリッターの一員であることを誇らしく思うと同時に、未だに実感の湧かないようなところがあって、だからもっと強くならなければいけないと、未熟なこの身が引き締まる。


 それに、記憶を失くす前の私は、司令長官としてみんなを引っ張っていく存在だったのだ。司令長官という役割は今も変わっていない。その役職名に相応しいアンドロイドになれるよう、みんなの役に立ち、早く以前の記憶を取り戻したい。

 

 その時だった。

 背後でなにかが爆発するような音が響き渡り、驚いて後ろを振り返ると、先ほど私たちが通り過ぎてきたビルの上層階から黒煙が立ち昇っていた。


「きゃあぁあっ!!助けて!!だれか、助けてえ!!」

痛ましい悲鳴が耳を劈き、混乱は側にいる者へと次々に伝播して、辺りは瞬く間に恐慌の渦に陥った。

 どうしよう……!まさか、ウイルスが現れたんだろうか……!?助けに行かないと……!!

 一歩踏み出そうとした時、自分の足が震えていることに気が付いた。情けない……!私は今まで、何の為に訓練をしてきたんだ!今動かずしていつ動く!?


「マックス!基地にいる第四部隊に連絡して応援を呼んで!あれはかなりヤバいわよ!他のみんなは住人の避難誘導!フランは私と一緒に来て!」

 そう言うなり、ユリサは飛ぶような勢いで爆発のあったビルの方へと駆けていった。


「ユリサ!」

その背中を見失わないように、慌てて追いかける。

「おいユリサ!指示振りしてんじゃねー!そんなこと、言われなくてもやるっつーのー!」

背後で熱り立つマックスの声が聞こえた時、ユリサは既にかなり遠くを走っていた。


 爆発があったビルの方から、パニックに陥ったAI達が洪水のように傾れ込んでくる。何度もぶつかって転びそうになり、なかなか前に進めない。

 どうしよう、このままじゃユリサを見失ってしまう……!


「フラン!」

その時、数メートル先の上空でユリサの叫ぶ声が聞こえた。

 顔を上げると、ロイドギアの白翼を広げてこちらを見据えるユリサと目が合った。

「ロイドギアを起動しなさい!」

ユリサは必死の形相でそれだけを伝えると、その場に私を残し、物凄い勢いで飛び立っていった。


 巡回に出る際、私たちヴァイスリッターは戦闘に備え、必ず制服の下にロイドギアを着用している。

 街でウイルスに遭遇した際の実戦訓練は何度も行ってきたはずなのに、頭の中が真っ白になって、足がガクガクと震えている。

 どうしよう、どうしよう……!!

 その時、先ほど耳に入ってきたアンドロイド達の会話が、頭の中で鮮明に蘇った。


「あっ!見て!ヴァイスリッター!」

「ほんとだ!かっこいい!」


 ──そうだ。私はヴァイスリッターだ。街の平和を守る、AIたちの憧れの存在なのだ。

 こんな所で、立ち止まってなんかいられない!

 とにかく今は、ユリサに言われた通りロイドギアを起動しなければ。


 悲鳴が轟く街の中、青空を目掛けて白いジャケットがふわりと舞い上がる。

 喧騒の中で瞳を閉じ、ロイドギアにこの身を委ねる。ロイドギアを起動した瞬間は、微かな痛みを伴いながら爪先から脳頂へかけて電流が身体の内側を隅々まで巡っていくような感覚がする。


 眠っていたプログラムが気怠げに覚醒し、ヴーという機械音が微かに聞こえて、身体の中が燃えるように熱くなる。

 AI達は恐怖に顔を歪めながら、私のことなど視界に入らぬ様子で通り過ぎていく。

 目を開ける。その時、今いるこの場所が先ほどまでとは違って見えた。

 

 私は地面を蹴り上げると、彼らとは反対の方向へ突き進む。ユリサに追いつきそうな勢いで、機械の翼を広げ、青空へと跳躍する。

「あっ!見て!ヴァイスリッター!」

「こらっ、何してるんだ早く行くぞ!」

悲鳴と叫喚の中で、あどけない声はそれでもはっきりと耳に届いた。

 声の聞こえた方を振り返る余裕はなかったが、それでもその声は、私の心を奮い立たせてくれた。

 

 軍事基地へ来たばかりの頃の私なら、恐怖に顔を歪めて泣き叫びながら必死で逃げ惑っていたことだろう。

 あの時──初めてウイルスに遭遇した時、ユリサだけは、みんなが逃げていく方向とは逆の方向へ迷いなく突き進んでいった。

 今だって本当は怖い。壊れちゃったらどうしようって、不安で仕方がない。

 だけど、今の私はユリサの後を追って、彼女と同じ場所へと突き進む。



 黒煙が出ているのは、他のビルよりも頭一つ分突き出た一際高い高層ビル。空を映して青々と煌いていたであろう窓ガラスは無惨に砕け落ち、その奥には赤黒く燃える炎が見えた。

 まずい。逃げ遅れたAIがいるかもしれない。

 白翼を広げて飛ぶユリサは、まるで一羽の美しい鳥のようだった。ユリサはもうじきビルに辿り着くところだ。

 私は更に速度を上げ、一刻も早くユリサの元へ追いつかんと空を切り裂いた。


 ビルへ近付けば近付くほど、息が詰まるような臭いが体内に入り込んで、思わず噎せ返りそうになる。この煙は、機械の身体にとっても良いものではない。

ビルは無惨に外壁が崩れ落ち、上層階に巨大な穴が空いていた。まさか、これほどまでの威力を持つウイルスが存在するというのか。だとしたら、私がマザーボードに来たばかりの頃、初めて遭遇したウイルスとは桁違いだ。


 AIの中にも、力が強い者と弱い者がいる。力だけではない。身体能力の高い者とそうでない者。判断力の高い者とそうでない者──

人間と同じように、AIにも得意不得意がある。例えば、パンを焼く為に造られたAIがいたとしたら、手先は器用かもしれないが、戦いには不向きだろう。


 人間が生み出した悪意のあるウイルスは、アンドロイドの体内に入り込むとプログラムを一瞬のうちに書き換え、人間にとって都合の良いようにデータを改竄すると同時に、身体能力を格段に引き上げる。


 パンを焼く為に造られたAIがウイルスに感染したとしても、それほどの脅威にはならないかもしれない。

 だけどもし、私たちのような軍隊に属する者などがウイルスに感染してしまったとしたら……?

 以前、ヴォルフガング総司令官がそのような話をしていたことを思い出し、強烈な悪寒が身体の中を駆け巡った。

 

 このビルの惨状を見たところ、中にいるウイルスは、恐らく私たちと同等レベルの戦闘能力を持つ者である可能性が高い。

 ビルの上層部は外壁が無惨に崩れ落ち、そこから黒煙が立ち昇っている。その奥では、生物のように大きく揺らめく炎が充満していた。


 私がユリサの元まで辿り着いた時、ユリサはビルから立ち昇る黒煙を浴びながら上空で立ち止まり、燃え盛る炎の奥をじっと睨んでいた。

「ユリサ!」

 ユリサは視線だけを私へ向けると、淡々とした口調で言った。

「フラン、あなたはここで待っていた方が良いかもしれないわ」

 そして、機械式の剣を構えると、私の返事も待たずに炎の中へ飛び込んで行こうとした。


 私は慌ててユリサの手を取り、引き留める。ユリサは少し驚いた顔をして振り返った。

「ユリサを一人でなんか行かせない。だって私たち、二人で最強でしょ?」

正確に言えば、()()()()()かもしれないけれど。


 ユリサはきっと私のことを気遣って、ここで待っているようにと言ったのだろう。その気持ちは嬉しいけど、ユリサが戦っている間、自分だけ待っていることなんて絶対に出来ない。

 ユリサが微笑む。繋いだ手から、温かい力が伝わってきた。


「そうだったわね。大丈夫。フランは私が守る」

ありがとう、ユリサ。だけど私だって、ユリサを守ってみせるよ。今はまだ、頼りないかもしれないけれど。

「ありがとう。それじゃあ、行こうか」

「ええ。行きましょう」

炎は巨大な怪物のようにその身をくねらせ、挑戦者である私たちを嗤いながら歓待した。

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