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シュガードール×エンドロール  作者: nami
訓練漬けの日々
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26 : 最強のアンドロイド

──情けないわねえ、フラン。それでもあたしの***なの?


 どこかで聞いたことがあるような懐かしい声が聞こえて、朦朧とする意識の中である記憶が呼び覚まされた。

 それは、私がシュガードール──最強のアンドロイドだってこと。それ以外のことは、やっぱり何も思い出せない。


 剣の切先を滑らせながら、ゆっくりとユリサが近付いて来る気配を感じる。

 慣れないロイドギアを身に付けている為か、先程ユリサから受けた攻撃が効いたのか、恐らくその両方だ──全身が痺れるように痛んだ。

 だけど、私はシュガードール。最強なんだ。最強でなくちゃならないんだ。私は、私は、ワタシは……!


 ──そうだ。壊さなくては。()()()()()()


 青空を映し出す鋭利な刃が私に向かって振り下ろされた。私は仰向けの体勢で、剣の切先が鼻先を掠める寸前で刃を掴んで動きを封じた。

 敵対反応を確認。対象物の抹殺を開始する。

 刃を握り締める手に力を込め、剣ごと対象物を投げ飛ばした。数メートル先でガシャンガシャンと機械部品が崩れ落ちるような音が聞こえた。


 立ち上がる。側腹部と頬、右手に損傷を確認。CPUに異常なし。対象物の生存を確認。リミッターを解除し、戦闘を継続する。解除システムをインストール。発動まで、残り30秒……20……10……5、4、3、2、1──リミッター解除。


 周囲を見回したところ、無数のコア反応を確認。対象物の抹殺完了後、直ちに殲滅を開始する。

 地面を蹴りながら滑走し、瞬時に対象物の元へ辿り着くと、その小さな顔面に機械装甲式機関銃(ライフル)の銃口を向けた。引き金を引こうとしたその時、薄桃色の淡く滲んだ白い頬がぴくりと動き、それを見た瞬間、引き金を引こうとした手が何故か動きを止めた。


 長い睫毛が重たげに持ち上がり、その下からオニキスのような漆黒の瞳が覗いた。

 私が動きを止めた一瞬の隙を突き、あろうことか対象物は銃口を掴んでバネのように軽やかに飛び上がると、先程と同じ箇所に蹴りを入れようとしてきた。


 私は数メートル後ろに飛び退いた。機関銃は私の手を離れて青空を高く舞った後、対象の手の中に落ちた。

 対象は私の足を狙い、容赦なく機関銃を乱射する。だが、この程度の速度の攻撃なら、交わすことは容易である。青白い煌めきを纏う宝石のような弾丸は、強固なロイドギアをも打ち砕き、その中にある仮想の肉体をも破壊する。


 彼女は必死の形相で私の足を狙ってくるが、私には全てお見通しだ。銃弾が装甲を掠め取る。花火のように弾け飛ぶ。彼女が悔しそうに顔を顰めるのが、私は楽しくって仕方がない。


 地面に突き刺さったまま放ったらかしにされていた剣を掴み取り、空へ向かって飛躍した。

 ああ、この感覚はいつ振りだろう。有り余るほどの自由!世界は広い。いくら壊しても壊し足りないほどに。


 ふと下の方へ目をやると、対象が物凄い勢いでこちらへ向かって飛び掛かってくる。遠慮もなく私の機関銃を撃ちまくり、それでも私には全く当たらない。

 私は背部の翼を広げた。以前とは少し仕様が違うような気がするが……まあ、悪くはないだろう。


 剣を持ち構え、なにか叫びながらこちらへ向かって来る彼女に向けて振り下ろそうとした。

 その時、下から無数の弾丸が浴びせられ、私は驚いてシールド──防御壁を張った。私としたことが、目の前の対象に夢中になって、下方の敵に気が付かなかった。


 無数の弾丸は私だけでなく、私を狙ってきた黒髪の少女にも浴びせられ、黒蝶が無惨に羽を千切られて墜落するかのように、彼女は落ちていった。


 ────ユリサ!!


 シールドを解除し、私は落ちていくユリサに手を伸ばした。間に合え、間に合って……っ!

 砕け散ってぼろぼろになったアームカバーから覗く、生身の華奢な手首を掴む。よかった、間に合った……!

 私はユリサの身体を抱き寄せ、私たちは一緒に地の果てへと沈んでいった。


 ……あれ?そういえば私、一体なにをしてたんだっけ……?

 ロイドギアを装着して、ユリサと模擬戦を行うことになって……それから……あれ?なにもわからない。

 厭な悪寒が全身を走る。身体の内側をざわざわと黒い触手に撫で付けられているかのような、或いは大量の小さな虫が蠢いているかのような不快感に寒気がした。


 私はユリサを抱きしめたまま、地面に叩きつけられた。体内に張り巡らされたコードを引き千切られているかのような、強烈な痛みが全身を駆け巡る。

 朦朧とする意識の中、最後の力を振り絞って目を開けた。すぐ傍には、気を失って眠っているユリサの顔があった。よかった、無事で……

 そう思いながら、私は目を閉じた。



 *



気が付いた時、私はベッドの上で横になっていた。最初に視界に映ったのは、自分の部屋ではない無機質な白い天井。

 顔を動かして辺りを見回すと、ベッドの側には物々しい風格を纏う機械が数台並んでいて、そこから伸びた何本ものコードが私の身体に繋がっていた。


 私、何してたんだっけ……

たしか、ユリサと模擬戦をして──そうだ!ユリサ!ユリサは無事だろうか。


 慌てて起き上がろうとすると、身体中に張り巡らされたコードが絡まり、余計にベッドから逃れられなくなってしまった。それと同時に鋭い痛みが走り、思わず声が出そうになった。

 その時、部屋の扉が開く音がして誰かがやって来た。ベッドを囲うカーテンに隠れている為、ここからだと姿は見えないが、足音は徐々にこちらへと近付いて来る。


 カーテンが開かれ、ヴォルフガング総司令官が姿を現した。

「よう、フラン。起きてたか。具合はどうだ?」

「総司令官……ユリサは……?」

総司令官は呆れた様子で笑った。

「俺はおまえの具合はどうだって聞いてんだよ。ユリサなら無事だ。隣のベッドで寝てるよ」

 総司令官はそう言って隣のベッドに顔を向けた。カーテンに隠れていて見えないが、中で誰かが──ユリサが眠っている気配がして、私は胸を撫で下ろした。


「よかった……私なら平気です、多分。ただちょっと、身体中が痛いですけど……」

「それ、平気って言わないだろ。まあ当たり前だ。ロイドギアを着けて、いきなり全力全開だもんな。この程度の傷で済んだのが不思議なくらいだよ。まあそれでも、勿論修理は必要だがな」


両腕は擦り傷やへこみだらけで、銃弾を受けた脚に至っては、一部分外装が剥がれ落ちている。だが、あれほど凄まじい攻撃を受けてもこのくらいの傷で済んだのは、きっとロイドギアに身体が守られていたからだろう。


 あの時──模擬戦の時のことを思い出そうとしても、殆ど何も思い出せない。無理に思い出そうとすると、頭が痛くなってくる。

 戦っている最中のことは覚えていないけれど、ロイドギアを身に付けてユリサと戦った時の私は、私じゃないみたいだった。


 ──情けないわねえ、フラン。それでもあたしの***なの?


 あの声は今でも鮮明に、電子の鼓膜に焼き付いている。あの声が聞こえてからの記憶がとても曖昧だ。

 私は、一体……

「……うっ」

思い出そうとすると、頭の中に電撃のような強烈な痛みが走って、思わず片手で頭部を抑えた。


「おい、大丈夫か?」

総司令官がいつになく心配そうな表情で私を見る。

「だ、大丈夫です……」

「模擬戦のことは、あまり気にしなくていい。以前ロイドギアを着けて戦っていたとしても、今のフランにはその時の記憶がないんだ。初めてみたいなものなんだから、普通に考えれば上手くいかないのが当たり前だった。それよりも……」


総司令官の目に鋭い光が灯り、声色は更に神妙さを増した。

「おまえも知っての通り、ロイドギアはアンドロイドの力を増強させる。アンドロイドが元々持つ脳力が高いほど、ロイドギアの性能も上がるんだ。

 だが、まだ身体がロイドギアに慣れていない時──初めて装着する時なんかは、暴走を引き起こす可能性が大いにあり得る」


 総司令官のその言葉を聞いて、僅かにではあるが、戦闘中の記憶がふと頭の中に浮かび上がってきた。地に倒れ伏したユリサの顔に私は銃を向け──


 私、なんてことをしてしまったんだろう。

 いくら模擬戦と言えど、ユリサに銃を向けるなんて……

 あの時の私は私じゃなくて、なにかに取り憑かれたみたいに身体が勝手に動いていて……!だけど、何を言ったって言い訳にしか聞こえない。


「……どうしよう」

自然と零れた声は震えていた。

「私、ユリサに……!ユリサに銃を……!」

 ユリサに嫌われてしまったかもしれない。失望されたかもしれない。そんな考えが頭を過り、不安で胸が締め付けられた。視界が滲み、涙が頬を伝った。


 総司令官は何も言わず、神妙な面持ちで側に佇んでいる。

「ユリサ!ユリサ、ごめん、ごめんね!私、ユリサを傷付けた!許してもらえないかもしれないけど……」

白いカーテンで閉ざされた隣のベッド。その中から反応は無い。ユリサはただ眠っているだけなのか、それとも私と言葉を交わすことさえ嫌なのか、それはわからない。


「……フラン」

その時、隣のベッドのカーテンが内側からそっと開き、ユリサが顔を出した。ユリサも私と同じように、身体には無数のコードが繋がれている。白い顔が今は更に青白く見えて、細い腕に巻かれた包帯が痛々しい。


「……ユリサ」

「それはお互い様でしょう。本気で戦うって言ってたんだし、私だってフランを傷付けた。だけど、フランが無事で良かった」

ユリサはそう言って、力無く笑みを浮かべた。


 初めてロイドギアを装着したとは言え、毎回あんな暴走状態に陥って我を忘れていては、ユリサを守るどころか返って傷付けてしまうだろう。

 あの時の私は、本気でユリサを殺そうとした。私の中に潜む怪物的な存在に身体を操られて、()は意識を失っていた。


 ロイドギアを装着しても暴走しないように、力を抑えられるようにならなければいけない。それが私の、これからの課題だ。

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