2 ニートになったわけですが。
「っくああ〜よく寝た!」
起きて、大きな伸び。朝日が眩しいぜ。
何年も開けていたにしては、意外に室内は綺麗なままだった。多少埃っぽいくらいだ。助かった。まず掃除からとかだともうやってらんないからな。
時計に目をやる。5時か。思ったより早起きだな。昨日帰って即寝落ちて……10時間くらい寝たのか?
【PM 05:00】
って夕方じゃねえか! 夕日じゃねえかあれ!
ま、今が朝だろうと夕日だろうと関係ない。今日からニートだ。幸い金はたんまりある。ろくに使えてないからな。
「よっこらせっと」
ベッドから降りる。埃が舞った。
……まあ、一応掃除しとくか。やっぱ鼻ムズムズする気がするし。へっくし。
鼻歌をうたいながら掃除機をかける。仕事をやめたってのに、頭の中にあるのはダンジョンのことばかり。
隅々まで綺麗にして満足したとこで、晩飯を買いにコンビニへ。タンメンにしようか、はたまたカルビ弁当にしようか、そんなのを考えている間にも、頭の中にダンジョンがある。もしかして:恋。
家に帰ってからも、なーんか落ち着かない。仕事してないのが新鮮すぎるのか? 貯金的にはしばらく遊んで暮らせるんだけどな。まあやりたいことも特にって感じだし、今のうちに次の働き先探すのがいいのか?
気付けば激辛キムチ鍋は空になっていた。いつ温めていつ食い始めたんだっけ。完全に考え事するクセがついてる。常に何か考えてたからな。
くそ、めっちゃ悩んで決めたってのに味わい損ねた。もったいねえ。残るのは口端に残るヒリヒリした感じだけだ。ペロッ……これはカプサイシン!
僅かに残る後味を味わいながら、再度考える。とにかく、どっかに勤めるってのはもう懲り懲りだ。もういいよ。十分社畜した。働くにしても楽に、ユルく。
ま、どうせやるならこの数年の知識が活かせる方がいいよな。仕事内容自体にゃ大きな不満はなかったんだ。つっても魔核がない以上、前と同じようなことはできないが……。
それ以外でダンジョン関連、じゃあフリーの探索者かって言われるとそれも違う。フリーだと強力なバフも受けらんないし、そもそも自分で探索するのって大変だし、低層じゃ稼ぎも安定しないし、そのうえ危ないしな。あと俺は結構運動苦手なんだ。実は今のコンビニ往復だけでもフツーに疲れてる。
んー、一旦ダンジョンから離れるか? でもな……。
……いや、そうか。要は魔核があればいいわけだ。バフ管理システムは、そのプロトタイプがしっかり俺のPCに保存してある。レガリア入ってから色々調整はしたが、数万人規模でやらないならあれらの調整は不要、てかむしろ邪魔だ。丁度いい。
システムの仕組みは、大元になる魔核の魔力を分配して、探索者にバフを届けるって感じだ。あのギルドにあったバカでかい大魔核は使えないが、個人用の未登録魔核を手に入れれば、ほとんど同じことができる。
「えーと、いくらくらいだったかな」
以前大魔核の予備を調べたことがある。今の俺の貯金なら買えないことはない……はずだ。
小さいのだと、最初は数体分のお粗末なバフしか維持できない。だがダンジョンで拾える魔石を食わせれば、いくらでも強化できる。
「……これってAmaz〇nで売ってんのか?」
魔核、と入力してみる。おお、数件ヒット。最短明日午前のお届け。こりゃいい。
とはいえ、価格的にギリギリか? 最低ランクのでも2,000万ときた。俺の貯金もまあそんなもんだ。レビューを見るに、まあ質は悪くなさそうだな。
問題は、こいつを買うだけで全く余裕がなくなること。魔核さえあればいいとは言ったが、当然俺自身が探索する気はない。魔核はあくまでスタートラインで、重要なのは、実際に探索させる使い魔だ。
「こっちも最低レベルにするしかないか……」
前から気になってた使い魔、ゴーレム。こいつは普通の使い魔と違って、戦闘時も手動操作する必要がない。
普通の使い魔はどう足掻いても同時に3体操作が限界だし、1体でもすげー疲れるからな。あれ。あと終わったあと頭痛くなるし。目開けてらんない感覚ね。
その点ゴーレムは、基本動作さえ設定すれば自動で動いてくれる。これはランクに関わらず同じだ。
こいつがイマイチ流行ってない理由は、コスパが最悪だから。最低ランクのは木製だし、下手すりゃ入口付近のゴブリンにすら叩き壊される。
かと言って高ランクのを買っても、まあこれなら人間の方が安いし楽だなってなる。自分で考えて臨機応変に動いてくれるしな。
じゃあ最高ランクの自律思考で動く上位種――オートマタとなると、それこそ魔核以上の金額が余裕で吹っ飛ぶ。のに、うっかり壊れたらそれまで。最悪だろ?
それでも俺がゴーレムに目を付けたのは、性能が均一だから。人間の探索者と違って、それぞれに合わせた調整がほぼ要らない。こいつはデカいぞ。俺のシステムで面倒なのはそこだったからな。
人相手だと、どうしても個々人に合わせた定期的な調整が必要になる。これが厄介で、人数が人数なだけに時間もかかるし、探索者からの評判も悪いしで踏んだり蹴ったりだ。改善したいと思ってはいたが、まあ木こりのジレンマってやつだな。最後まで手が回らなかった。
ゴーレムなら、その辺全く気にする必要がないってわけだ。お手軽簡単設定、システムに初期値を入力するだけ。魔導装甲や火力、魔力、その他諸々のステータスは全部魔核で一括管理できるし、個々の成長は当然気にしないでOK。精々武器の違い分を微調整するくらいで済む。夢みたいだ。
一旦、魔核とゴーレムを一括購入。ちょっとケタのおかしい明細が出た。ビビるね。……いや、後悔はしてないぞ。これは初期投資だ。
さて、届くまでの間暇だな。寝るのもいいが、さっきまで寝てたしなあ。
時刻は22時。絶妙な時間だ。ゲームでもするか……そうだ。ゴーレムに使うプログラムを今のうちに書いておこう。畑は違うが、魔導言語はバフ管理で散々使ってた。
とりあえずPCを起動。更新が走る。重い重い重い。ン年振りの起動だから分からんでもないが、当時の最高スペックだぞ。
重すぎてメモ帳くらいしか開けないので、仕方なくそこで書き始める。まずは基本動作から。
同じ言語なのになんか新鮮っつーか。書いててワクワクするのは久々だ。




