3 Dungeon_Automate
窓から射し込む朝日に顔をしかめる。もうこんな時間か。外から陽気な鳥の囀りが聞こえてくる。
シンプルなプラグラムでも、慣れてない領域だと結構時間かかるもんだな。ゴーレムに人気が出ないのも分かる。
「コーヒーでも淹れるか……」
オフィスに置いてたお気に入りだ。インスタントだが、そうは思えぬ深みとコク。匂いを嗅ぐだけで眠気と疲れが飛ぶ。
コードは一旦完成したし、とりあえず仮想空間でテストするか。基本の調整はバフシステム側でやるから、恐らくこんなもんでいいはずだ。
仮想ゴーレムをテキトーに用意した仮想サンドバッグ相手に動かしてみる――まあ、概ね想定通りってとこか。ちょっと動きがトロいが、まあ安物だしな。それに、その辺はバフでどうとでもなる。
と、チャイムが鳴った。早い。
「お届け物でーす」
「あっ、どもども」
箱が大小1つずつ。デカい方、これは玄関先で開封しないといけないやつだな。そんままじゃ家の中に入らん。
とりあえず小さい方を運び込み、開封。紫に光る結晶の塊が出てきた。こいつが2,000万ちゃんですか。し、慎重に扱わないと。
サイズは小ぶりのスイカくらいで、大魔核に比べると随分貧弱に見える。まあ重要なのは性能だ。接続が楽しみでならない。
玄関先に戻って、今度はデカい方を開封。箱の中から更に箱が出てきたので(これもそこそこデカい)、1つずつ中に運び込む。
「ふい〜……」
10往復もするともう結構限界で、そのままベッドに倒れ込んだ。う、動けん。明日の筋肉痛は確定だ。
ゴーレム箱の開封前に、探索者登録でも済ませておくか。これはベッドに寝転がりながらスマホでできるし。
操作者が同行している場合は使い魔側の登録は不要だが、今回俺は同行しない。全部システムで自動化するし、様子も画面越しに見るだけだからな。
「名前、名前……1号とかでいいか」
大事なのは操作者の方だったはずだ。うろ覚えだが。
「マミヤ・トオル、っと……これで1体」
1体目こそ5分弱かかったが、残りは自動入力で楽に済んだ。流石に10体分もやると体もある程度戻ってきたので、いよいよゴーレムの箱開封だ。
「おお!」
外見は、言ってしまえばデッサン人形。ただしデカい。
身長は大体180くらいか。木製の割にはしっかりした作りで、これならノーバフでも3階くらいまでは潜れるかもな。
あと、頭部だけちょっとハイテクな感じだ。人なら目がある部分にスリットが入っていて、そこから緑色の光が漏れ出てる。多分センサーとかのアレだろう。
「説明書説明書……」
同封の紙にあったQRコードから、pdfをダウンロード。ゲ、英語かよ。まあ自動翻訳あるし問題はないか。
一旦、自動操作のシステムに接続してみよう。いた、エネルギー供給先の魔核を先に設定しなきゃか。えーとこれは魔核の方の説明書読まないとな。大魔核と大体同じ感じだろうとは思うが……。
*
ごちゃごちゃやりつつ、何とか魔核の設定完了。こいつをPCに繋ぐだけで3時間だ。腹減ったな。なんか食い行くか……
と見せかけて……行かない……!
今は1分1秒も惜しい。目の前に宝の山があるってのに飯なんか食ってられるか。それはそれとして空腹は割と限界なのでストックしておいたカ〇リーメイトを1口。今ならサンドイッチ伯爵の気持ちが分かるね。
水分を補給しつつ、いよいよゴーレムの方に取り掛かる。いきなり10体も買っちまったが、まずは1体だけ動かすか。
と言っても、基礎動作のプログラムはさっき組んだ通り。1号に書き込んで、実行するだけだ。
「えーと、個体識別番号は……」
左膝の裏。全部で20桁くらいの英数字をキーボードに打ち込んでいく。
接続テスト、OK。通信成功。
「これでよし。実行!」
エンターを叩く。緊張の一瞬。
1号はゆっくり立ち上がり、それから俺に跪いた。ふう、成功だ。
このままバフの方のテストもしよう。魔核からテキトーな数値でバフを入れる。ここの管理画面は普段使ってたのと同じだから楽だ。いやあ、プロトタイプ残ってて本当に良かった。
「このダンボールを片付けてくれ」
「Understood」
おお、流暢な英語。日本語に切り替えるの忘れてた。まあいいや。あとでシステム側から設定しよう。
1号は少しぎこちない動作でダンボールをまとめていく。思ったが、この程度の重量ならバフなしでもいけたな。
「じゃあ次は、こっちに並んでるの壁際に寄せてくれるか」
中身入りを頼んでみる。1号はいとも容易くといった感じで箱を持ち上げ、そして移動させた。こりゃいい。片付けは気にしなくて良さそうだ。
戦闘周りはダンジョンで試すとして、カメラ機能諸々のチェックだ。非常時の直接接続テストは……やらなくていいか。
直接の方は脳波で繋がるわけだが、たとえゴーレムでも酔いがすごい。適性検査のトラウマが蘇る。
とりあえずカメラだ。散歩ついでに、初任務として俺の朝飯兼昼飯の買い出しを頼む。
「コンビニで飯を買ってこい! これが財布だ。落とすなよ」
「Understood」
テキトーな指示すぎるが、目的地はシステム側から設定してある。高性能なAI積んでなくてもこのくらいは大丈夫だろう。
カメラ越しの街は暑そうだった。日差しが照り付けてて、いやあ、出たくないね。クーラー最高!
街ゆく人々がチラチラとゴーレムを見てるのが分かる。確かにこんな使い方してるの俺くらいのもんだろうしな。ダンジョン内でもなければまず見ない。何ならダンジョン内でもそうそう見ない。正規の方法で使い魔接続するなら、もうちょい他に選択肢がある。
自動識別センサーは正常に動いているようで、赤信号は止まるしスマホ歩きの若者は避ける。即興でテキトーに書いたにしては結構いい線いってるんじゃないか?
ってな感じで、昨日行ったファ○マに到着。店内放送までクリアに聞こえてくるぜ。ワオワオ!
あー、昼飯の具体的な内容命令してなかったな。昨日食い損ねたカルビ弁当とかあるかな。とにかく、早く命令入力しないと……って、もう遅いか。
自動で選ばれたのはまぜそばでした。1号君、それは"アリ"だ。
1号はまぜそばの容器を手のひらに乗せ、有人レジに向かう。そういや、コミュニケーションの方は俺が担当しないとだな。マイクオン、と。
『あー、袋ください。あと温めもお願いします』
『おわっ!? ええと……はい』
店員、ビビらせてすまん。
『お会計682円になります』
ここで財布から札を取り出す……はずが、1号はいつまで経っても縁をなぞるだけだ。さては細かい動作できないなお前。
まあダンジョンで使う分には問題ない。大抵が武器振るとかの大雑把な動きだ。
『あ、すみません。この体だと細かい動作できないみたいで。その財布から料金分とってもらえまか?』
『かっ……かしこまりました』
店員は恐る恐るって感じで財布を手に取ると、1,000円札を抜いて、小銭とレシートを戻した。
ちょうど温めも終わったようで、箸とお手拭きを入れて袋を手渡してくれる。1号はしっかりとそれを受け取り、店を出た。
とりあえず、これで戻ってこれたらもうダンジョン行けそうだな。同じ調整を4体くらいに入れておくか。まずは5体で試す。
システムに接続……ああ、バフの方のシステムも統合しちまうか。名前も付け直そう。
ダンジョン、自動……そうだな、じゃあ。
【Dungeon_Automate】で。




