1 え?クビ?俺がですか?
新作です。今度は攻略側に回ってみました。
「おい、お前」
「……んあ?」
なんてことない、ある日の昼下がり。デスクの前で昼寝してると、後ろから声をかけられた。
「チッ、昼寝かよ。いいご身分だな」
「ふあ……あ……さーせん」
仕方ないだろ、たまの休憩中くらい自由にさせてくれ。昨日も徹夜で新階層の解析やってて疲れてんだよ。さっきやっと各魔物の情報がまとまったとこだ。
つってもこれは俺のメイン業務じゃない。本来の俺の仕事は裏方で各探索者にバフをバラまく――要は、バフ管理エンジニアってとこだな。
ギルドに所属する探索者は皆、能力もその力量も様々。そこで俺が開発したのは、最適なバフをミリ秒単位で自動追従・配分する最強システムだ。ちなみにベースは俺が学生の頃に作った。それが今じゃ攻略最前線で活用されてるってわけだ。天才って呼んでくれてもいいぜ。
冗談はさておき、レガリアが数年間被害ゼロで業界トップに君臨できてるのはこれのお陰が9割。マジでね。
「まあ、その給料泥棒も今日で終わりだ。――間宮、お前を本日付で解雇する」
「はい? 俺を解雇? 冗談ですよね?」
夢か? あ、ドッキリ大成功、的な?
「はっ、冗談だと思うか? 新体制の業務査定の結果だ。魔導インフラ運用部は赤字垂れ流し部門じゃねえか。現場の探索者は血と汗流して命懸けでダンジョン潜ってんだよ。部屋に籠ってPCカタカタ叩いてるだけのサボり魔に払う給料はねえ」
んなバカな。新社長になってからガンガン首切ってはいたが(この部署も今や俺1人だ)、ついに俺の番かよ。
にしたって、この俺が解雇? 仕事は人の100倍くらいやってるぞ。なんたってここに住んでるんだからな。週に5日はデスクの下に寝袋を敷いて、アラートが鳴れば深夜3時でも飛び起きて対応してきた。ちなみに、残り2日は普通に徹夜だ。文字通り住んでないと回らないんだよ。
「いや、いやいやいや。仕事はめっちゃやってますよ。てか、うちのバフ付与は俺の魔導システムで基本自動化されてるんです。別にサボってなんか……」
「口を開けばシステム、システムね。要するに、その魔法の道具とやらが勝手に動いてるだけだろうが。そんならやっぱりお前は不要だな?」
違うだろー! 違うだろ! その勝手に動いてるシステムを監視してるのは誰だと思ってんだ。
「親父はお前を気に入っていたようだが、俺の目は誤魔化せん。さっさと荷物をまとめて出ていくんだな」
めちゃくちゃだ、新社長。そもそもこの部署は俺のワンオペなんだぞ。俺抜きじゃここのインフラは1秒だって維持できない。
力の源である大魔核こそギルド管理だが、システムなしで現場が回るか? 答えは否だ。この規模を今更手動でやるとか狂気のSATAだろ。
つっても、この様子じゃ話は聞いてくれなそうだな。ちゃんと説明すんのもめんどくなってきた。
「……まあ、分かりました。じゃあ退職しますよ。ただ、せめて最低限の引き継ぎと、俺の私有システムの扱いについて――」
「要らん要らん! 何引き継ぐっつーんだよ。魔法陣見てるだけなんて誰がやっても同じだろうが。プライドだけは一丁前だな、この無能が」
はあー? 完全にプッツンきたね、これは。
社長秘書が哀れるように俺を見ているが、その目を向ける相手を間違えてるぜ。
引き継ぎは「いらない」つったよな今。しかも社長自ら、明確に。これは業務命令だ。つまり、俺の†最強魔導バフシステム†一式をこのサーバーから抹消しても、法的に何ら問題はないってわけ。
もう後悔しても遅いかんな。許さないかーんな。俺はやるぞ。
「じゃ、お望み通り。俺のシステム、バックアップごと完全削除しますからね」
「あ? まだなんかブツブツ言ってんのか。さっさと失せろ!」
言われなくてもだ、畜生め。これ以上は会話する気も起きねーよ。最高権限でデリートコマンドを入力、確認も全部スキップからの、エンターキーをッターン!
【魔導システム『Aegis_System_v4.2』――デリート……コンプリート】
黒く光る巨大なメインサーバーがブゥンと唸り、数秒の間を置いて沈黙した。残ったのは大魔核に接続する魔法陣のみ。
これで自動化システムは終わり。あっさりしたもんだ。ま、これからは全部手動でやってくれ。乙。
秘書に軽くお辞儀して、部屋を出る。社内は閑散としていた。随分と人も減ってて、このギルドに未来はないかもな。ここで辞めれて良かったと思うべきか。
さーて、これからどうしたもんかね。仕事を失ったわけだが絶望感みたいなものはあんまりない。もう疲れてるんだ。とにかく今は帰ってベッドで寝たい。
私物を詰めた段ボールを抱え、実に数年ぶりに、俺は帰路についた。
* * *
同日、夜。
ギルド【レガリア】が管轄する、東京西エリアダンジョン中層にて。
「おい。なんかバフの効き悪くねーか?」
パーティで最初に違和感を覚えたのは、前線の男だった。
いつもなら、魔物が間合いに入った瞬間に『攻撃力上昇』『速度上昇』『物理障壁』etcetc……の光が即座に身体を包む。しかし今日は、それがない。いつまで経っても。
「気のせいだろ。ほら、来るぞ!」
「なんだよ、ッチ、不具合か?」
今までの数年間、一度もこんなことはなかった。一抹の不安を覚えつつも、男は目の前の魔物に意識を集中させる。
「あっ……避けて!」
後衛の女の攻撃魔術より先に、狼の魔物が素早く距離を詰めた。詠唱が終わるのを待つはずもなく、そのまま鋭い爪を振り下ろす。
とはいえ、"普段なら"、ここで自動的に『防御バフ』が最優先で割り込み、ノーダメージで済むはずだった。
……が、何も起きない。
「ぐ、ぐあああぁぁああっ!」
肉を抉る音と共に、男の防具が引き裂かれ、血飛沫が舞った。
別の魔術師が慌てて治癒を使おうとするが、こちらも詠唱が遅い。魔物は男の腹を食いちぎり、残りの人間を睨む。
「きゃああああ――」
パーティは既に半壊していた。
「おい! バフはどうした! バフ部門は何やってんだ!」
「本部に通信が繋がらない! クソっ、撤退だ……何でもいいから急げ! 今ならこいつらもまだ助かる!」
これはいつも通りの気楽な探索ではない。ダンジョンは、最早安全な場所ではなくなった。
バフを失いただの一般人と化した探索者たちは、悲鳴を上げながら低層への敗走を始めていた。
初日は3話更新します。




