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ニムとルムは知っている

 ギーネが御者をするらしい。一か所に集まってそんなことを話しているアジサシの団員たちを眺めながら、ルムとニムは顔を見合わせた。


 ―どう思うか

 ―他ならばともかく、うちの子だし別にいいのでは


 ルムがそう言うのは何となく分かっていたので、ニムは静かに息を吐いた。

 アジサシが始まった時からチグサと共に旅をしてきた彼らからすれば、アジサシはみんな「うちの子」である。


 その中でもカタリナは少し特別ではあるが、ギーネに手綱を握らせないかと言われればそんなことはない。今でも非常時にはカタリナではなくアンドレイが手綱を握ることはあるし、強いこだわりはない。

 そもそも外ののびのびと走っている時は、誰が手綱を握っていようとルムとニムが勝手に判断して道を決めているので、御者台に居る人物は誰であろうとあまり関係がないのだ。


 まぁ、何も分からないまま力いっぱい手綱を引きそうなコリンは勘弁してほしいが、そこはチグサたちも分かっていてギーネを選んだのだろう。

 あの子は真面目だから、きっと言われた通りにきっちりきっちり練習をするはずだ。


 ―これはいわゆる、代替わり?

 ―そうなのでは。人の一生は短い


 ルムとニムは、フェゲズという種だ。人よりもずっと寿命は長く、既に人よりも長い時間を生きていて、今後もまだまだ長く生きる。

 二頭はチグサに買われる前から人の傍に居たので、人の寿命が短いことも知っている。


 ―次はギーネか

 ―その後は、どうなる

 ―それは彼らが決めること。次に継ぐ子は、まだ産まれてもいないはず

 ―ギーネもまだ子供、チグサが去るには早いのでは

 ―すぐにという話しでもないだろう


 話し合って、何やら賑やかなチグサたちの方を見る。

 耳を澄ませてみると、コリンの初めての弓は散々だったとそんな話で盛り上がっているようだ。

 それでも本人がやる気だから、続けていけば良くなるだろうと。チグサから見ても、絶望的ではないと、そんな話をしている。


 ルムとニムにとってカタリナは特別だけれど、それ以上にチグサも特別だ。

 特別な目を持った子。自分たちの正体を見抜いた子。願いによって、その在り方を歪められた子。

 望むのならば天空の島へも連れていくつもりだったけれど、それを望みはしなかった子。


 ―チグサはまだ長く生きるのでは

 ―本人が望んでいない、続けさせるのは酷だ

 ―では、あの姿のまま?

 ―終わりの時は変わらない方がいい


 不老不死とは、望む者には与えられないものだ。

 それそのものも、それに近しいものも、望んでいない者にばかり与えられる。

 なんともまぁ、ままならないものだ。ルムとニムにそれを与える力はないが、不完全なそれを吸い取ることは可能である。


 チグサは自分の生が永らえられることを望んでいない。極端に成長の遅い身体を憂い、置いていかれることを嘆く子だ。だからこそ、その命を吸い取ってやるべきだとニムは思っている。

 ルムは、長く生きて傍に居てくれるのならば嬉しいと思っているが、チグサが嘆くのであれば終わらせてやるべきだとも思っている。自分の望みよりも、特別な子の望みをかなえてやろうと。


 ―姿はどうにもならないか

 ―我らは老いさせるわけではない

 ―ビャホズならば可能だが

 ―あれらは海に降りてこないだろう


 姿を変えさせる力を持っているものたちのことも、ニムとルムは知っている。

 けれど、それらは空に暮らすものたちであり、わざわざ降りては来ないのだ。

 こちらから出向けば会えるだろうが、チグサは空を見ようとしない。一度見てしまえば、多くを知ってしまうから。


 となると、チグサの見た目は結局のところ年若い少女のままであり、ルムとニムに命のすべてを吸い取られてしまうまで、その姿は変わらないのだろう。

 可能ならば、成長しきったその姿を見てみたかったけれど、などと考えて、ルムはチグサを眺めた。


「どしたの」


 そこに、声がかけられる。久々に外套を脱ぎ去って、ピンと耳を立ててこちらを見ているカタリナだ。

 ニムとルムが何か話しているのに気付いていて、けれど邪魔はせずに見ていたところ、チグサに目が向いたので確認に来たのだろう。


 ―なんでもない

 ―カタリナも輪に入るべき


 撫でられる手に甘えながら、団員たちの方へ軽く押す。

 こちらにばかり構う必要はない、という意思表示だったのだけれど、カタリナは少しだけ何かを考えた後にルムとニムも連れていくことにしたらしい。


 牽引用のハーネスはもちろん手綱も取り払って軽装になったニム達だが、行こうと誘うカタリナに否やを突き付けるのはためらわれる。

 結局、顔を見合わせた後に誘導されるまま歩きだし、団員たちの輪に混ざることになった。


 カタリナの傍でしゃがんでくつろぐ姿勢を取ると、サシャが縦に切った人参を差し出してくる。

 それを食べていると、今度は林檎やら葉野菜やら、あれこれと次々に野菜が出てきた。

 野菜が新鮮なうちに、ということだろうか。それとも、食べさせるのが楽しいのか。


 ―楽しいのでは

 ―サシャはよく食べる生き物が好きだ

 ―とてもいい笑顔


 一応量は考えているようなので、ニムとルムが何かを言う必要もないだろう。

 あまりやり過ぎるとカタリナとチグサに小言を言われることは、サシャも分かっているのだから。

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