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88,弓でも始めてもらおうかな

 ペルーダを出て、第六大陸から第四大陸へ移動し、そこから空を移動することしばらく。

 アジサシが次の目的地として選んだのは、第二大陸のとある場所だ。

 人目につかず、わざわざ足を運ぶ何かがあるわけでもない土地。商売としては全く旨みのない土地だが、休息にはちょうどいい。


 以前にも何度か訪れた事のある土地なので、馬車を止めると流れるように野営の準備が始まる。

 カタリナは馬たちを連れて川に行くらしく、それを見送ってチグサも野営の準備に参加した。

 野営準備が終わると、第六大陸ではずっと布に包まって動こうとしなかったレウコスが身体を伸ばしていたり、コリンが剣を持ち出して素振りを始めたりと各々好きに行動し始める。


 サシャは早速料理の支度を始めるようで、機嫌よく鼻歌を歌いながら焚火の上に鍋を置いていた。

 第六大陸で仕入れた魚を使ってみることにしたらしい。宿に泊まっている時から作りたい料理を列挙していたので、しばらく料理をしていなくて少しばかり不満があったのかもしれない。


「何事も程々が一番、ってね」

「急にどうした?」

「サシャが楽しそうにしているから」

「あぁ……ずっと宿の食堂で食べてたからな」


 持ち出した椅子に腰を下ろしつつ呟くと、隣にやってきたアンドレイが怪訝な顔をした。

 ので、鼻歌交じりに魚を切っているサシャの方を見る。偶には人の作った料理が食べたいときもあるだろうが、サシャはそもそも料理が好きなので何もできない日がずっと続くのは嫌なのだろう。

 今回は予想以上にペルーダ滞在が長引いたので、みんなやりたいことが溜まっていそうだ。


「すっかり根無し草が染みついてるねぇ」

「あんたがそれ言うか?」

「まぁ、それはそう。でも普通は町に定住する方が暮らしやすいものじゃないかい?」

「だとしても、誰一人としてアジサシを離れようとはしないだろうさ。……そのうち年寄りが暮らす家が必要にはなりそうだけれどね」

「確かに。ボクも急に身体にガタが来る気がするんだよねぇ」


 なんて、少し先の話をする。

 アジサシはそろそろ世代交代を見据えなければいけない時期に入ってきているのだ。

 エリオットが他より少し上、若い二人を除いて他六人が大体同じ年代。そこが一気に抜けることはないだろうけれど、引継ぎも考えればそれぞれの役目を少しずつ下に継承していかなければいけない。


「家も必要だけれど、まずはやっぱり御者探しだね」

「そうだな。……ギーネに教えてみるか?」

「……そうだね、非常事態に手綱を握れる人間が多いに越したことはないし」


 コリンよりはギーネが手綱を握れた方がいいだろう。何かから逃げることなどがあれば、コリンには追ってくる相手の足止めをさせたい。

 ギーネに攻撃手段を持たせるのも別に悪くはないが、絶対にコリンの方が向いているのでそこは役割分担だ。


「そのうち時期を見て、コリンには弓でも始めてもらおうかな」

「そうだな。……となると、弓が必要かい」

「最初はお遊び程度のやつで良いと思うけれどね。……あ、エリオットー!」


 どこかへ行っていたエリオットがちょうど戻ってきたので声をかけ、コリンの弓練習について相談する。

 椅子を持ってきてチグサたちの対面に座ったエリオットは、話を聞いて少し呆れたような声を出した。


「また急だな……」

「そろそろ世代交代を見据えないといけないって話になってね。ギーネには御者が出来るようになってもらおうかなと」

「なるほどな……そうなりゃコリンは弓か。まぁ、やる気はあるんじゃねえか?」


 もういっそ新しく弓兵を探すか、なんて話していたら、自分が話題になっていると察したのかコリンが走り寄ってきた。

 なんですか!?と目をキラキラさせるので弓をやってみる気はあるか、と聞いたところ諸手を挙げてやりたがったので、店の在庫から適当な弓を見繕ってくることにする。


 弓自体の在庫はあまりないが、まぁ初心者の練習用ならば特に問題はないだろう。

 弓を使う冒険者は弓本体よりも弦を買うことの方が多いので、本体はそこまで積んでおく必要がないのだ。かさばるし。


「ってことで、在庫の中でも一番シンプルなものを持ってきたけれど……どうだい?」

「ま、いいんじゃないか?」

「矢じりいるか?」

「とりあえずはいらないだろ。……ほら、持ってみろ」


 大体の物は在庫にあるので、やりたいとなればすぐにでも始められるのがアジサシの良いところだ。

 エリオットによる確認を終えた弓を渡されて、コリンが見様見真似で弦を引く。

 筋力はあるので、その動作には問題はなさそうだ。


「お?なんだコリン、弓始めるのか?」

「はい!」

「なら的でも作るか……ちょっと待ってろー」


 薪集めに行っていたセダムが戻ってきてコリンの手にある弓を見つけ、そのまま馬車の中へ入っていく。中に積んでいる木材などと取ってくるようだ。

 なんだか賑やかになってきたな、なんて思いつつ、チグサも練習用の矢を作る手伝いをすることにした。


 何ならついでに売り物にする矢も作るか、なんて考えてあれこれ道具と素材を持ってきて、アンドレイと自分の間に置く。

 こうしておけばアンドレイも手慰みに矢を作り始めるので、作業が大変捗るのである。

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