84,なんでもいいよ
止まらぬため息を溢し続けて早一時間。チグサはレウコスが引っ張り出してきて再調整したドレスを身に纏い、サシャにヘアセットとメイクを施されていた。
ちなみにまだまだ準備は終わらなさそうで、既に嫌になっている。
とはいえ、どんなに嫌になろうとも今更逃げることも出来ないのだから仕方ない。
隣ではアンドレイも死んだ目をしながら色々と飾り付けられている。
夜会に参加することになった場合、実際行くのはチグサとアンドレイだ。
チグサはアジサシの団長として絶対に参加しなければいけない。その上でパートナーとして一人、男性陣の中から誰かを連れていくことになるのだが、そうなると選ばれるのがアンドレイなのだ。
他の五人は速やかに行かない理由を見つけて逃げていくので、チグサに死んだ目で見上げられて服の裾をがっちり掴まれたアンドレイが行くことになる、というのがいつもの流れになっている。
そんなことを毎回やっていれば、夜会と言えば二人が行くもの、という認識になっていく。
実際アジサシの団長と副団長が揃って参加する方が見栄えも聞こえも良いので仕方がないとはいえ、特に行きたいわけでもないのに行かなければいけない二人からすると虚無の顔になるしかない状態だ。
「レウコス、もうちょっと大きい髪飾りってなかったっけ。ここにでっかいの一個欲しくない?」
「欲しい。ちょっと待って、あったと思うから持ってくる」
「なんでもいいよ」
「良くないの!団長がこんなにちゃんと着飾らせてくれるのなんて夜会の時くらいなんだから……!」
サシャによってせっせと編み込まれてアップスタイルにされた髪は、まだまだ完成ではないらしい。
チグサとしてはもういいんじゃないかなと思っているのだけれど、サシャとレウコスが揃って髪飾りやら何やらを引っ張り出してきているのだ。これはまだまだ時間がかかるだろう。
「あ、サシャちょっと待って、せっかくだしミュアザーエフラワーも着けよう?髪飾りも作ったんだ」
「いいじゃん!いいよね団長?」
「イイヨー」
「じゃあミュアザーエフラワーが目立つようにするから……でっかい飾りじゃなくて、金細工の葉っぱとかが良いかな」
「これと……あ、これも合いそう」
なにやら頭の後ろで楽し気にされているのを虚無の微笑みで受け入れていたら、隣でヘアセットをされていたアンドレイが同じような表情でこちらを見てきた。
こっちはこっちで日常ではあり得ないくらいに飾りをつけられている。何その羽根。どこにあったのそれ。なんて気持ちを込めて頭の横を指さしてみたら、そっと首を振られた。アンドレイも知らない羽根らしい。
知らないんならしょうがないよね、と諦めて小さく頷いたら、サシャに頭を掴んで正面に固定された。飾っているところだから動くな、ということらしい。
ハイ、と小さく返事をして、虚無の微笑みで正面を向く。
サシャとレウコスは夜会が終わるまでこんな調子なので、アンドレイに付けられている羽根の詳細も聞けないのだ。聞いたところで後回しにされるので。
というわけで諦めて身を委ねる事数時間。ようやく準備が終わり、会場へ向かう馬車が迎えに来たのでアンドレイと二人それに乗り込んだ。既に疲労困憊で帰りたいが、ここからが本番なのだ。
「ちなみにアンドレイ、ボクの頭どうなってる?」
「……レウコスが少し前まで作ってた刺繍があるだろ、あれだ」
「あれかぁ……」
つまりは色味は少なく、けれど華美に飾られているらしい。
ミュアザーエフラワーで作った飾りを使うと決まった瞬間に、二人の中ではその方向で整えることが決まったのだろう。
「毎度思うんだけどさ、普通ドレスとかと一緒に飾りも決めるんじゃないのかい?」
「俺が普通の支度を知っているわけがないだろう。毎度こんなもんなんだから、うちでの普通はこれだろ」
「よく纏まるよねぇ……」
思わず本気で関心した声を出してしまったけれど、本当に夜会に行かないといけないことになるたびに感心しているのだ。
ドレスやら何やら、あれもあるこれもあったと引っ張り出してきて合わせることもなく着せ始めて、髪型や飾りも後からどんどん修正していく。
そんな進め方をしたらとんでもなく時間がかかりそうなものなのに、過剰に時間がかかるようなこともなくきちんと整うのが不思議だ。
あとから出てきた飾りがこんなにもしっくり来るのはなぜなのだろう。
「そもそも全部レウコスが作ってるから、ある程度統一感はあるんじゃないか?」
「なるほど、確かに。何なら靴までレウコスが装飾を足した物だもんね」
ドレスと上着が同じデザインなのは当然として、出てくる小物の雰囲気がなんとなく似ているから纏まるのか。それにしても凄いとは思うし、そもそも全てレウコスが作っているというのがとんでもないことな気もするが……まぁ、それは言ったら終わりだ。
なんて話している間に、馬車は夜会の会場へと入っていった。
会場へ着くと入口前まで進んで馬車は止まり、外からそっと扉が開かれる。
アンドレイが先に降りて手を差し出してくれたのでそこに掴まりつつ、チグサは隠し切れないため息を溢した。これも仕事だと思ってやり切るしかないとはいえ、億劫なことに変わりはないのだ。




