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78,心ゆくまで見ておくれ

 ガルダでやりたいことはいくつかあるが、まずはやはりミュアザーエフラワーを取り扱えそうな工房に卸すところから始めることになった。

 これにはチグサが行くことになり、荷物持ちとしてセダムが付いていくと立候補し、案の定レウコスも工房巡りにはついて行く、と手を挙げた。


 というわけで三人で馬車を降り、木箱に収めたミュアザーエフラワーを抱えてのんびり進む。

 向かう先はガルダの工房が集まっているエリアなのだけれど、いわゆる職人街とは少し違う場所だ。ガルダで職人街と呼ばれる場所は主に武器や防具の工房が集まるエリアなので、装飾品を扱う店は少ない。


 これから向かうのは、ガルダの中央区に近い一角。質の高い装飾品などを作る工房の集まるエリアだ。

 アジサシはなんだかんだこの区画ともやり取りが多いので、特に迷う事もなく進んでいく。

 そうして顔見知りの工房を巡り、買い手を探していくのだ。


「レウコス、行くよ」

「はーい」


 少し目を離すとディスプレイされた小物に目を奪われるレウコスがはぐれないように見張りつつ、ちょうど店先に出てきた知り合いに笑顔で手を振られたのでそちらに向かう。

 この工房も候補の一つだったのでちょうどいい。


「やあ、久しぶり」

「お久しぶりです。今日はどうなさったんですか?」

「買い手を探していてね。ちょっと時間があるかい?」

「もちろんです。すぐに師匠を呼んできますね」


 工房の中に案内されたので素直に足を踏み入れて、以前に訪れた時とは違う内装を目で追いつつ来客用のソファに腰を下ろす。

 装飾品にも流行り廃りがあるので、それに合わせて内装の装飾も少しずつ変えているのだろう。


 そんなことを考えていると、この工房の主と店先で会った青年が揃ってやってきた。

 出されたお茶を一口飲んでから、正面に座った職人に持ってきた箱の中身を見せる。その目がきらりと輝いたのを確かめて小さく笑えば、手に取っていいかと聞かれた。


「もちろん。一等綺麗に出来たやつを揃えてきたから、心ゆくまで見ておくれ」

「これ、ミュアザーエフラワーですよね。……本物は初めて見ました」

「前回持ってきたときは……ああ、あの時はガルダに来る前に全て売れてしまったんだっけ」


 前回ミュアザーエフラワーを採取したのは確か第五大陸で、そのまま第五、第四大陸で大半が売れてしまったのだった気がする。

 特に第四大陸の方では催事に使う特別な装飾にそのミュアザーエフラワーを使いたい、ということで、かなりの量を買い取られたのだ。


 だから、ガルダにこれを持ってくるのはそれなりに久々なことになる。

 アジサシ以外でもミュアザーエフラワーを扱う商人はいるだろうが、その商人がガルダの工房全てを回るわけでもないので、弟子の青年が本物を見たことがなかったのも不思議なことではない。


「そうだな……ちょうど献上品を作る予定もある。三十輪ほどもらおうか」

「了解、自分で選ぶかい?」

「そうさせてもらえると有難いな」


 持ってきていた箱のふたを全て開けて、職人が花を選ぶ様子を観察する。

 代金の方は前回売った時に合わせようという話しになっているので、チグサがあれこれ考える必要があるものは特にない。


 そうしてゆったりと職人の丁寧な手つきを観察して、選ばれる花の傾向を考えている間に三十輪が選ばれて代金を受け取った。

 これで用事は終了なので帰ってもいいのだけれど、何せうちの細工師がじっと壁の装飾を見つめて動かない。つついてみても反応が薄いので、脳内で作りたいもののイメージが作られているところなのだろう。


「すまないね、少し装飾を見させてもらってもいいかい?」

「おう、好きにしてけ。そっちは今何作ってんだ?」

「昨日見た時は髪飾りを作っていたけれど……戻ったら別のものを作り始めそうだね」


 レウコスの事もよく知っている相手なので、そのまま作っていた物の話が始まった。

 そこでやっとレウコスの意識が戻ってきたけれど、装飾職人と細工師の話が盛り上がり始めてしまい、工房を去るのはもう少し後の事になるのだった。


 まあ、チグサとしてもその間にあれこれと話を聞けたし、二人が話し込んでいる間に店に置かれている装飾品を見させてもらって仕入れまで行ったので、別に文句はない。

 レウコスを連れて工房を巡るとそこそこの頻度でこういう事が起こるのだ。


 なにせレウコスは作る物の幅が広い。編み物も刺繍もするし、木の飾り彫りや造形もするし、機会があれば陶芸なんかも普通にやる。

 一点特化の職人たちとは全く違うその幅広い創作の範囲が、なにやら彼らの目には好ましく見えるのか、それとも物珍しいのか。


 レウコスと話しているととんでもなく盛り上がる職人というのも多いのだ。

 そんなわけで、そもそも今日だけで全てを巡れるとは思っていない。別に急ぎではないし、レウコスが楽しそうでよかったなぁ、なんてセダムとのんびり頷き合うのもまた、予定通りといえば予定通りなのだ。

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