第2話 墜落
第2章 墜落
「何か変だわ?この揺れひどくない?機体が傾きすぎじゃないの?ちょっと怖いんだけど」
高校生の三咲翼が、搭乗機の異変に気づいた瞬間だった。
間もなくすると、機内アナウンスが流れ始めた。
「機長より、お客様へお知らせします…」
ガガガガガガ!
「只今、気流の悪い箇所を通過中です。
シートベルトをお締めになり、お手荷物を…ガガガガ、何だよ聞こえね〜ぞ」
「ったく!気流かよ」
乗客の一人があまりにも揺れる機体に不安を抱き、少々いらだち始めていた。
その時機体は既にコントロールを失いかけていた。
機長の配慮で気流が乱れていることを告げたが、穏やかな気流が流れている事は、コックピットではわかっていた。
谷間にさしかかったときそれは突然起った。
コックピットの計器類が突然狂いだし、水平すら保てなくなっている。
「機長、操縦桿がききません、何か外部の力に機体が吸い寄せられているような感じです」
「そんな馬鹿な事があるか?自動操縦を解除しろ」
「既に解除しています、し、しかし、十時の方向へ傾いたまま、高度も下がっています」
「もう一度、冷静に確認するんだ」
「はい」
初めは乱気流かと思っていたが、コックピットでは徐々に機体の異変に気づき始め、何か別の力によって機体が動かされている様子で、既に操縦コントロールが不能に陥っていることを知ったのだ。
「皆さま、どうぞ落ち着いてください」
客室乗務員が不安を抱き始めた乗客に向かって、自主的に声をかけ始めた。
「おい、お姉さんよ、落ちるんじゃね〜だろうな?」
客室乗務員は異変を感じながらも平常をよそおい、「ただいま、気流の悪い所を通過しておりますので、もうしばらくシートベルトしっかりとお締めになり、安全確保の上座席にお座りください」
と確認を促し、笑顔で乗客の対応をしている時、またガクンと揺れた。
「キャ〜」っと客室乗務員も一度ふわりと浮いたかと思ったら自ら床に叩き付けられる程、機体は大きく左右に揺れた後左に傾き、そしてさらに小刻みに揺れだした。それでも、傾くたびに悲鳴の聞こえる機内の乗客へ向けて、乗務員は必死で叫びつづけていた。
「皆さま、どうか落ち着いてください」
「大丈夫ですから!落ち着いてください」
そのとき、また、ぐらっと一段階段を踏み外したように一瞬足が浮いたかと思ったら、急降下し始めた。
「ぎゃ〜」悲鳴とも、叫びともつかない声があちらこちらから響き、不安と怒り、あきらめと祈りの心情が一群となって機内を包んでいた。
「どうなってんだよ、俺はまだ死にたくね〜ぞ」不安が頂点に達した乗客からは怒号の声が飛び交った。
「大丈夫です、ですから落ち着いて…」
ズドン
一瞬今度は、突き上げられるように跳ね上がったのだ。
あちらこちらの座席から、シートベルトをかけるのに間に合わなかった乗客が、右へ左へと叩き付けられ、上部のラゲッジスペースに格納されていた荷物も、各所で扉が開き、大きな荷物が乗客の頭上へ落下した。
機内はパニックになり始め、荷物が落ちるたびに悲鳴や咆哮が飛び始めた。
また、機体がズズズズ〜ンと一気にエアポケットに入り急降下すると、体が宙にふわっと浮き、一段と大きなざわめきと悲鳴がおこり始めた。
ネネと翼は、この新型重力コントロール装置を搭載した機体に乗る乗客の一人だった。
長年事情により民間機は飛行を控えていて、新たなエネルギーを搭載したEZ-9990 という新型旅客機のテスト飛行にネネと翼は招待客として乗り合わせていたのだった。
「お願い、なんとかしてよ、どうしたらいいの?」
翼は組み合わせた両手をこわばらせながら必死に祈り、時折左右に機体が揺れるたびに肘掛けにしがみつきながら、大声を上げることもなく静かに現状を見守るしかなかった。
小刻 みに震える機体からは、明らかに何かが起こっていることを察知できる不安な空気が漂い始めたのだ。
「管制塔、管制塔、聞こえますか?どうぞ」
「EZ-9990、南西へ進路を取って、D地区上空を迂回してください」
ピーピーピーっと、管制塔内にも旅客機の進路異常を警告する音がモニター周辺から鳴り響き始めていた。
D地区の飛行は民間機はもとより、すべての航空機および、地上から区域内への立ち入りも禁止されてる。
高度を上げての通過さえ、禁止されているエリアなのだ。
「EZ-9990、D地区へ侵入しています、すぐに南西へ回避してください。
聞こえますか?どうぞ、すぐに、現在航路から進路を南西へとりなさい」
「管制塔、管制塔、機体の制御不能」
ガガガガガガ〜
「よく聞こえない、もう一度お願いします」
「管制塔!メーデー、メーデー!通信不能、メーデー、メーデー」
ガガガガガ〜
「EZ-9990、すぐに進路変更してください、聞こえますか、防衛装置が作動します、今すぐ回避してください、領域を外れなさい」「・・・・・・・・・・・」 通信は不能に陥った。




