第1話 完
エンジンマウンテンの麓は、D地区とよばれ、特にエリア侵入を禁止されている地区だった。
この谷の向こうの一帯は、最もエネルギー反応の強いエリアで、エゾの管理体制が厳しい地域でもあった。
谷の境界線には至る所に自動感知エネルギー砲撃機が配備され、D地区を領空侵犯する機体は、熱感知されると容赦なく砲撃されるシステムが整えられているのだ。「日が落ちる前に戻ろうか、ココロの言う通りだな」既に厚い雲が覆い始め、夕日の光を遮り、風も一段と強くなり徐々に辺りは薄暗さを増して行った。
「でしょ!でしょ!皆さんも危ないんですからね」
「わかったよ、ったく!落ちたら食われるぞ〜うひひ〜」
カイチが、ココロの後ろから、お化けのまねをして襲いかかろうとしてみせた。「もう、いい加減にしてくださいよ!カイチさん」
こころは、ちょっとむっとしたが、この陽気な仲間の姿が大好きだった。
「行くぜ、暗くならないうちに」
それぞれの飛行機は、エンジンタービンを始動しプロペラが回り始めると、辺りの砂煙を巻き上げ夕暮れの丘を後にした。
「サブ、みんなと悪いけど先に戻っててくれ、ちょっともう一周してから戻るよ」神風は着陸する前に見たあの飛行機の残骸のようなものが気になって仕方がなかったのだ。
「ん、わかった、カイチ、ピーター、凪、ココロ、先戻るぞ」
「神さん、大丈夫ですかね?ブラック・ナインの奴ら来たら大変ですよ」
「へ〜きだよ、あんな奴ら来たらまいてやるさ」
「んじゃ〜、金魚屋でな」ブラック・ナインとは、神風たちのグループ「ゼロ」と対立する機体をブラック塗装した九人の飛行集団で、一区住む最も卑劣な奴らの集まり集団だった。
彼らも自分たちが飛ぶ縄張りを主張し、神風たちが飛ぶエリアで出くわすと、我々の縄張りだと言わんばかりに、容赦なく攻撃を仕掛けてくる連中なのだ。
「確かこの辺で見たよな?もう少し高度を下げてみるか?」高度を下げ雲の下へ出ると地上がよく見えるのだが、進路を少しでもD区域側にとるとそれだけ銃撃を受けるリスクが高まるのだった。
森の木々は時折見せる雲の割れ目から地上に注ぐ夕日を浴びて、所々オレンジ色に輝いていた。
「あ!あれだ、飛行機、民間機か?なんでこんな所に墜落してんだ?ブラック・ナインの仕業か?いや?あんなでかいのは狙わないだろう、砲撃食らったか?まさか?乗客は?人は乗ってたのか?しかし、めちゃくちゃだな、こりゃ〜助からね〜な」機体を発見した途端、瞬時に神風の頭の中をいろいろな事が駆け巡った。
「よし、位置はチェックしたぞ、今日はとりあえず戻るとするか」くすぶっていた白い大きな残骸はまぎれもなく墜落機だった。
その機体は木々をなぎ倒し、百メートル近くにわたって谷底の森にバラバラになった破片が飛び散っていた。
上空から確認できるのは、大きめのひしゃげた胴体と折れた翼、飛び散った旅客シートや乗客の荷物。神風は所々でくすぶる煙を目下に見ながら二度ほど旋回し、ばらまかれた荷物の中に人間の面影を探すが、動いているものは風に揺れる木立と、立ち登る白い煙以外見つけることができなかった。




