第12章 森
「これが引っかかってた木の数十メートル先に落ちてたな?そのカイチって子の飛行機が」
「残念だが、バラバラの黒こげだったよ」
「そのカイチ君の飛行機の前にも、大型の旅客機が近くで墜落しらしいんだが、そこから助かった三人が君たちより前に、同じようにここへ迷い込んで来てな」
「彼らも、今ここにいるよ、その奥の建物の中にね」健三郎は、自分が見た墜落の光景を手短に話して聞かせた。
「俺、それ見たんです、その墜落した飛行機、それを探していたのがもう一人迷い込んでるココロって言う友達なんです」
「そうか、二人もね」
「この森は生きている限りは襲うような動物はいやしないよ」
「放射能は数値さえ気にして濃度の高い場所へ近づかなければここは天国さ」健三郎は初めて笑顔を見せた。
「で、そのもう一人って言う友人も墜落した飛行機を探してどこかに迷い込んでいるのかね?」
「我々も、もう二年になるかな?」
「ここに住み続けて、我々の一団は十五名の大人と六人の子どもが現在ここにいる」
「生活は決して楽ではないが、あの山で暮らすよりはましだよ」健三郎が円形の大きな柱に囲まれた広間から、彼方に見えるエンジンマウンテンをさして言った。「おじさん、あそこで働いてたんですか」
「ああ、昔の話だがな」
その一言を言うと、向い側の一人がけソファーからそっと両手に力を入れ立ち上がり、健三郎と後ろにいた五人は、さらに奥の通路へと歩きだした。
「ちょっと、待っていてくれ」
その言葉を残し、行ってしまった。
しばらくすると、ボロボロの車椅子に乗ったおばあさんと、若い女性、少々小太りの中年男の三人が健三郎に付き添われ、やってきた。
「これでお客さんが全員そろったって訳か」
健三郎は楽しげに声を上げて笑った。
神風はここ数日の出来事で、様々な自分の知らない世界の出来事に気づき始めていた。
「この山ってずっと昔からあったけど、一体何の為に作られたんだろう?」
「そういえば、自然にできた物ではないし、人が作ったって事は何かきっと目的があるはずだ」
「ここに住んでいる人たちはみんな働いてたって事は、何があの山の中で何かが行われてるってことだろ?この森だって、なんか奇妙だし、そこら中で何かが起ってるって感じがするし、この先の森だって、なんで立ち入り禁止なんだ?」
神風は、今までに無い衝動に突き動かされていた。
自分が今まで生きてきた中で、初めて何か怒りでも不安でもない、自分がなんとかしなくてはいけないという、意欲に目覚めた瞬間だった。
ただ、毎日を自分の刺激と興奮を覚えるだけの生活の中に、目的が芽生え初めていた。
しかし、それがまだ何なのかはこのとき神風はわからなかった。
「健三郎さん、彼らは?」
「たった今来たお客さんだ」
「あなたたちと一緒だよ、ここへ迷い込んだらし」
翼は誰かしら、という顔つきで声をかけてきた。
「あの、こんにちは、あなた方も迷ってここへ?」
神風と三人は、いきなり女性が扉の向こうから現れたので、ちょっと照れくさそうにしながらも、顔を見合わせると話しかけた。
「ええ、ここに来たというよりは、友達を捜しにきたら迷い込んだって言った方が正かな?」神風は、照れ笑いをしながら話を返した。
「はぁ、それは・・・」翼は、言葉を詰まらせた。こんなところに友達を捜しにくるってどういう事かが瞬時に理解できなかったのだった。
「友達は、森の中をさまよっているってこと?
」翼の返答は的を外れていた。
「その、なんて言うか、探し物をしに森の中へ行った奴がいて、迷ってるだろうなって思って、探しにきたってとこかな?」
神風は、また照れ笑いを浮かべながらもっともらしい言葉を探していた。
「で、君は家族でいるのか?ここに?」
「いいえ、私たちも来たばかり、アクシデントがあって、やっとの思いで落ち着けるこの場所へ来たばかりよ」その、飛行機が墜落してね・・・」
翼はその後の話を話そうとしたが、言葉が出ずにうつむいてしまった。




