第12章 森
神風が、声をかけると同時に走り出した。
突然、ウンモー、ウンモーと不気味な声が森一体に響き渡った。
「さっきのカエルだ、そこいら中にいるぞ」
ウンモー突然後ろから鳴き声が聞こえた。
「うわ!」
一番後ろにいたピーターが振り向くと木の陰に一メートル二十センチほどの大きなカエルがこっちを見ていた。
つるんとした目を二、三回瞬きするともう一度、ウンモーっと泣いた。
「逃げろ!」
四人は一斉に走り出した。
しばらく振り返りながら後ろ気にして走ると、息を切らしたサブローが言った。「ありゃー大丈夫だ、池のに比べたらちっちぇーよ」
「でも、一メートルはあったよ」
「全く、焦らせやがって」
今度は一番後ろにいた凪が声を上げた。
「うわ、なんだこいつ、気持ちわり」
それは、凪が手を動かした瞬間だった。
大木の下の草むらに置き石のように置かれた石の固まりが、鳴き声をあげたと思ったら、長い舌をだし、凪の手の甲に舌を吸い付けたのだ。
目の前をぶらぶら動かした凪の手を反射的にハエかなにかの生き物と勘違いし、舌をのばして補食しようとしたのだ。
凪は吸い付いた粘液のあるべとっとしたナメクジのようなものを、持っていた木の枝ではたいた。カエルはすぐに補食をあきらめ舌を外すと自分の口の中へ戻したのだった。
おそらく、自分の捕らえた獲物が補食の限界を超えていた事を察知したのだろう。「ちょっと待ってよ、カエルに食われるよ」
みんなが足を止めて振り向くと、大きさが一メートルはあるカエルだったが、人間が食べられるほどの大きさではないことがわかるとほっとした。
「何だよ、脅かすなよ、本当に食われるかと思ったじゃねーか」
サブローは訴えた。しかし、まだ辺りをキョロキョロしながら、警戒心は捨てていなかった。
カエルはまだじっとこちらをにらんでいる。舌をたたかれたせいか、口の中をモゴモゴと何か不満げな様子だった。
「しっかしでかいな、この谷の中は天敵がいないんだなきっと。
「栄養も豊富そうだし」
サブローが我々から目を離そうとしないカエルに向かって石を投げつけながら訴えた。
一瞬カエルは目をつむると、後ろ向きになり、のそのそと草むらへ消えていった。ウンモウ、ウンモウまた、雨音と共に大きな鳴き声が聞こえている。
「早い事雨宿りしようぜ」
神風がみんなを促した。
森の雨は亜熱帯化したスコールにも似ていて、ザーッと降ったかと思ったら、すぐに止み、空の雲はうっすらと青みがかって見える。
同時に巨大なカエルたちの鳴き声もポツリポツリと合唱から、ソロへと変わり始めた。
「あーあ!ずぶぬれだよ」
「全くだぜ」
「しかも、もう止んでるしな」
弛んだ森の大地を四人は足早に歩く。
小さな崩れたコンクリートの家だか、ビルだか、わからない建物がいくつも見えたが、なかなか身を整えれるような、適当な建物は見つからない。
「ここも、廃墟だな」
「おーい、誰かいるか?いないならいないって言ってくれよ〜」
突然サブローが大声で叫んだ。
ハハハハハ!
突然みんなが笑いながら、「居ないならしゃべれねーだろ」と、誰かが言った。
大きな大木が連なる森林地帯から、少し木々が間引かれた林のような、地表に天からの光が差し込む場所へ抜け出ると、遠くに低層階のビル群が見えた。朽ち果ててはいるが、建物はあまり倒壊はしていない様子だった。




