第1話 神風
この地域一帯は、ある一部を除いて、エゾ(グリーンパラディウム、通称:ディザシティーの支配者)の管理地となっている。
この一帯はA〜Fの詳細な地区ごとに管理され、特に上空、地上ともにD地区は侵入することは許されていない。
謎の多い山岳地帯だけに、この森は昔から何か違った生態系が広がっているという噂が流れていたが、その生物を見たものは少なく、語られることはあっても、あくまでも俺の知り合いの友達が言っていたんだけど、と言ったような例のどこからともなく聞こえてくる噂の一つでしかなかった。
ただ一つ言えることは、未だに放射能測定値が高く、誰も好んで森の中へ足を踏み入れようと思わないことだけは事実だった。
「建物の様子がよく見えるぜ!左旋回で突っ込むぞ!キャッホ〜」
「神さん本当にいくんですか?だってあんなに狭いんですよ、しかもツタがロータに巻き込んだらおしまいですから〜」
ココロは相変わらず心配事を口にしている。
彼は人一倍の心配性であり、よくみんなの行動を観察しては気にかけていた。
「ココロ、ヤバいから楽しんだぜ!みんなついてこいよ」
ブロロロロロ〜
雲の合間へ機首を下げ、ビルの谷間にむけて突っ込んでいった神風の「隼」からはエンジン音だけが空に響き渡っていた。
雲の切れ間は流れが速い気流によって、あっという間に閉じられたかと思うと、また別の場所から地上が現れる程流れは激しかった。
一瞬見せる雲の切れ間へ急な角度で降下した機体には、かなりのジーがかかり、それだけでも体は多少の恐怖を覚えた。
雲の下は透き通るような空気が漂う森が広り、プロペラ機の爆音が木々の合間を縫うように遠くまで響き渡っていた。
「よしいくぜ!ここは角度が重要だな、あの上から垂れ下がってるツタはちょっと厄介だな、九十度、いや八十度?」神風は大きく傾いたビルの周りを二度ほど旋回し、進路を確認した。
ビルとビルの谷間はまともに機体が水平に通れる隙間はなかった。
機体を九十度近く回転させ、上部から垂れ下がる長くのびたツタに接触しないように入る角度も、瞬時に計算しなくてはならない。
しかも、互いのビルが傾斜する谷間の中までは確認できない。
「おぉ〜、体が熱くなってきたぜ!突っ込むぞ、ん、もうちょい下げか?思っていたより狭いな、こいつは近くで見ると不気味だぜ」長年雨風にさらされた建物は既に廃墟と化していて、大きな地震の影響もあって所々が崩れ、今にもビル全体が崩壊しそうなたたずまいを見せていた。
「ん、もう少し高度を下げた方がいいな」目先百メートルまできた時、ビルの大きさとあまりにも狭すぎるビルの谷間に、一瞬神風も唾を飲んだ。
百メートル、九十メートル、八十メートル、だんだん迫りくるビルの様子は、かつて人間がそこで暮らしていとは思えないほど荒れ果て、どこか数千年の時がたった遺跡を思わせる姿をさらけ出していた。
ゴォォ〜っという爆音がビルにこだまして、コンクリートのひび割れから小さな砂粒が音の反響と共にさらさら落下し、空中に舞っているのが目視できた。それは砂時計の砂がオリフィスの狭い隙間から落下し、末広がりに積まれた砂山へ落ちる様子に似ていた。
「こんなもんか?」
「あと五度ぐらい?」
機体の傾きを全神経を集中させ調整していく。ビルとビルの合間は薄暗く、垂れ下がったツタが邪魔で出口の様子までは見通せなかった。




