第5章 飲茶屋の話
第5章 飲茶屋の話
「遅くなっちまったな、やっぱここは朝通るのが一番気持ちいいわ、誰ぁーれもいない墓地を一人でお散歩、なんてね」
いつものようにいつもの通りを歩き、いつもの教会からトンネルを抜け、そっと凪のお店へ向かう。
ザザザザザちょっと重めの開き戸を開いて金魚屋の土間へでた。
「おはよう、凪、いる?お〜い・・・」
部屋をのぞいても誰もいないので外に出ると、凪が金魚鉢を洗ってる所だった。
神風は洗い終わるのを見計らって凪に声をかけた。
「よう、凪、朝からなに洗ってんの?」
「あ、神さん、おはよう、ま〜ね、いつもの事だけどさ、金魚鉢を洗っておかないとね、このところ金魚買っていくお客さん多くてさ、夏が近づくとみんな水槽に目が止まるんだよ」
「何言ってんだよ、こん中一年中春じゃねーかよ!」
神風は、ちょっとにやりと微笑みながら、ディザシティーの中の空調がいつも春の心地よい風を運んでいる事を皮肉った。
「ま〜人工的に調節しているとはいえ、多少季節を感じる人もいるんだよ、外はもう夏だからな」
「あぁ〜朝からじりじり照りつけているぜ、まあ、そうはいっても大手を振って外歩ける訳でもなけどね、つらいとこだよ」
地表は百年の歳月で放射能の数値は多少下がったものの、毎日野外で生活をするにはまだ数百年の歳月が必要と思われた。
「で、みんなは?」
神風は店の様子を見渡しながら洗い立ての金魚鉢を持ち上げると、金魚鉢越しに凪を見た。
「何やってんだよ、せっかく洗ったんだから汚さないでくれよ!みんなならバラバラと来たような気がするけど?もういつもの屋台村行ってるんじゃないかな」
凪の仕草が邪魔だよという態度を取った。
「そっか、じゃ〜俺も行ってみるわ、後でお前もこいよ」
「あぁ、行きたいけどさ、ほら、祭りが近いだろ、人手が足んなくてさ、ごめん、今日はみんなで食べて」
「わかったよ、商売繁盛だね」神風はちょっと寂しげな表情を浮かべながらも、うらやましい気持ち半分で金魚屋を出ていった。この街の二ブロック向こうに朝一番からやっている大きな屋台村がある。
この屋台村はやむ飲茶がメインの小さな数十店舗の店が所狭しと連なっていて、この一角だけはアジアの市民の台所といった雰囲気が漂っていた。
神風が赤い字で「歓迎」と書かれた大きな大弾幕をくぐると同時に、神風の足下に鶏が二羽、歩く方向に一緒にくっついてきた。
二羽は喧嘩をしながら前に出たり後ろにさがったりと、忙しそうに動き回っている。入り口から四方に赤い垂れ下がった提灯をくぐり、奥へ奥へと抜けて行くと、あちらこちらからいいにおいが漂ってきた。
「食べて来なよ!一個十ルージュだよ、ほら、どうだい」
いつもの朝、いつものかけ声、ここへ来ると店のみんなから声がかかる。
何年も洗っていないんだ、と言わんばかりの薄汚れた前掛けを見るたびに
「あんたの店大丈夫か」
って笑って言ってやりたくなる。
のどまで言葉がでかかるが、今はディザシティーの住人では無いので、なぜか気軽に冗談を言う事も戸惑ってしまう心の心情があった。
三件先を右を曲がり、大きな大黒様の石像を左に入ると、ちょっとした円形の広場にびっしりと安っぽいテーブルと椅子が無造作に置かれていて、既に三分の二は人で埋め尽くされ、朝からぺちゃくちゃよくおしゃべりするおばさん達にまじって、飲茶をむさぼるサブローを見つけた。




