第22章 D-m3
「スノーヴィは死んだ人に寄生してから一日で脳から自らの分身を作り出す、寄生してから二、三時間は触れると自分にも害が及ぶ、ちょうど毛虫がとげを持っているようなものだ、その時間を過ぎるとサナギ状態といっていいだろう、その時ならどんなに移動しようが触れようが大丈夫だ、ただし一日、そこから新たに生まれるスノーヴィはもとのスノーヴィと変わらない。
しかし、これは普通のスノーヴィのデータであって、そのデータがブラックスノーヴィに当てはまればの話だ。
一歩間違えばセナ君と同じようになりかねない。
「わかった、それでも俺たちはやるだけの事はやってみるよ、で、セナはまだここに」
「あー居るとも、奥へ行って声をかけてやってくれ」
神風は一連の話を聞くと、頭の中で整理しながら、「でも人の遺体があっての話だろう」とぶつぶついいながら奥の裏庭に出た。
そこにはさわやかな秋の香りとともに、一面に広がる花壇に見事なコスモスが咲いていた。
清々しい外気が流れる花壇に見た目七十歳ぐらいの白髪の老人が杖をつきながら花の小道を散歩していた。
「すみません、ここにセナって奴いますか?」
神風はその老人に声をかけた。
その老人は振り向くと「おお、神風か」とか細い声で話すと、こちらに振り向き杖をつきながら歩いて近寄って来た。
「セナ、まさか、本当にお前か?どうしたんだよ、その顔」
七十際には見える白髪の老人は神風と年も変わらないセナだった。
その姿は生気を抜かれ既に長い年月を生き抜いた風格さえ備わっていた。
「俺だよ、こんなになっちまったぜ」とセナは言うと、フフフと笑みを浮かべた。
「まさかお前が」
それ以上神風は声も出せないままセナを見つめていた。
「久しぶりだな、ここへ来たって事はまた何かやらかそうってことか?まー俺はそんな話聞いても見ての通り、後は死を待つだけだ、あの生物は触れちゃいけない生き物だったんだ、まーこれも人生だ、後数ヶ月か数日かわからない人生をここで送るだけだ、長生きしろよ神さん」
セナは初めて神さんと呼ぶと、それ以上かかわるなと言わんばかりに、スッと神風に背を向け奥へ歩いて行ってしまった。
「まさか、まさかあれがセナか?」
神風はそれ以上声も出せず、セナが杖をつきながら花の小道を歩いていく背中を見つめていた。
「まさかセナが」神風からは同じ言葉しか出てこなかった。
健三郎の話を聞く以前に、触れてはいけない生物にかかわろうとしている自分に戸惑いを感じていた。
「健三郎さんあれは本当にセナ?」
「ああ、残念ながらもう回復はしないだろう、すべての生気を吸い取られてしまったからな、あの生き物には触れないほうがいい」
健三郎も神風が考えていた事と同じ事を口にした。
「まあ、せっかくみんながわざわざ来てくれたんだ、中へ入って話せば他にもいいアイデアが出るかもしれないからな、さー入って入って」
健三郎は神妙な顔から笑顔に変わるといつもの人懐っこそうな笑みを浮かべた。
「確かここへくる前の話だがブラックスノーヴィがいるサンクチュアリと言うのが一時噂になった事があった。
そこは死の聖域といって生きる物が最後の生涯を送る場所だと言われていた。
かつては年老いた老人が大勢住んでいたらしいが、いつしか森に住む動物の墓場になったと聞いている、エンジンマウンテンのどこかにつながっていて、山の中で働けなくなった老人の最後に行き着く場所だったとも聞いている。




