第3章 金魚屋での話
第3章 金魚屋での話
「やべ、もうすぐ日が暮れちまう、急がないと」
既に太陽は地平線からわずかに顔
を出す位置まで沈み、流れる雲の合間からたまに日が射す程度で間もなく森の彼方へと沈みかかっていた。
夕暮れになると雲はいっそう厚みを増し、気流も荒くなり地上の視界を遮ってしまう。
神風の「隼」は機体さえアンティークだが計器類はそこそこ新らしい代用パーツに改造を施しており、なかなかいい働きをする戦闘機なのだ。
「あそこだ」雲を抜けると既に大地は真っ暗になっていた。
肉眼で地上を確認するには限界に近く、森の中に点在するデスホールの巨大な穴が遠くに見え、その大きな穴からは、ほのかな光が立ち上がり、神風が戻る道しるべに役立っていた。
凪をのぞく他の五人はこのデスホール(通称十一区)の住人だ。百年前の大震災の後、各地で起こった地殻変動や津波で壊滅状態となった国々の人々が二つの大きな国家とも呼べるほどの大都市、グリーンパラディウム(通称ディザシティー)とディザシティーから追放された住民が暮らすデスホール(十一区)を作り上げたのだった。デスホールと呼ばれる大きな地下都市に暮らす住民は、もともとグリーンパラディウムで人並みの生活をしていたが、次第にディザシティーの欲に翻弄され、そして人の道からはずれ、行き場を失い、最後にたどり着く安堵の地がデスホールと呼ばれる死の穴なのだ。
神風もサブロー、カイチ、ピーター、ココロも皆、生まれた時からデスホールにいた訳ではなく、親の追放により数年前に泣く泣く家族とここへやってきた新参者たちなのだ。このデスホールは、十一区からなり、区の番号が若ければ若いほど、古くからの住民が暮らしている。常にデスホール内では争いが絶えず、日々殺人、強姦、暴行、略奪などが繰り返されスラム街の要諦をなしている。人々はそんな生活の状況下でも生き抜くしかなく、力つきる者は、デスホールの地下深くへと沈んでいった。
「ふ〜ようやく見えた、みんな戻ったかな、急がないと」神風は、小さな声でぶつぶつとつぶやき、安堵感を漂わせた。デスホールとグリーンパラディウムの間ぐらいに、小さな民間飛行場の跡地があった。
彼らはそこを自分たちのアジトと称して、日々の拠点にしていたのだ。
荒れた地上にはまだ高い放射線が残っており、デスホールの人間でさえ、外の世界で暮らそうと思うものは少なかった。ドドドドドドドド〜 神風はやっとの思いで荒れた廃墟の空港跡地へ着陸した。
「真っ暗になっちまったな、ふ〜着いたぜ」神風は一人つぶやいた。
大空の雲の切れ間から時折見える星の光が、一時の安らぎを覚えさせてくれた。ここから数百メートル歩くとディザシティーの一角につながる地下道があるのだ。元々そこにあった排水溝を通り抜け、途中から彼らが1年がかりでトンネルを掘り、秘密の抜け道を完成させたのだった。
デスホールとディザシティーの人々は完全に遊離され、特別な商売がない限り通行許可は下りず、自由な出入りは許されていなかった。
つまり、一度デスホール行きになると元の人並みの生活に戻ることは、よほどのことがない限り一生あり得ないのだ。
「相変わらずうすきみわりーなここは」神風は飛行機から小さな懐中電灯を取り出し歩き始めた。




