覚悟
気がつくとナオは、LEDの明かりの下で横たわっていた。
いつの間に眠りについたのだろう、と思うのもつかの間、
「熱い…」
ナオは呻くかの如くに声を絞り出す。
着ていたパジャマは汗でぐっしょりと濡れている。
それに、ふと気がつくと外が騒がしい。
パトカーと救急車のサイレンの音が騒がしく、街中を駆け回っている様子だった。
ナオは高熱を宿した身体を引きずる様にして、冷蔵庫に近づく。
「水……!」
白い、清涼感のある外装を目前にして、ナオの意識はそこで途絶えた。
「…………」
薄れゆく意識の中、彼女は聞いた。
狂った様に何度も玄関のドアを叩く音と、およそ正気と思えない、数多の低いうめき声を。
✝
ナオはその天井の低い部屋に、一人で立っている。
正確には、一人と“半分”。
目の前にそれはあった。
黒い服を着た、“半分”の成人女性。
粗大ごみのマネキンの様に床に投げ出されている。
股から右肩に至るまで、斜めに引き裂かれた肉体。
溢れ出した血が、まるで煮凝りのゼリーの様に固まって、テラテラと明かりを反射している。
ナオはそれに近づいて、こう呟く。
「食べたい…」
…竜巻の様に襲う、猛烈な空腹感。
飢餓感と呼んでも差し支えない程の飢えを彼女は感じていた。
膝をつけて半立ちになり、白く細い手をそっと伸ばす。そして止まる。
「……。」
首を左右に振り、立ち上がった。
ナオの意識はそこで、背後に移った。
赤錆色の、古びたドア。
ゆっくりと、真っ直ぐに突き進み、ドアノブを握り締める。
明け放たれた先は、真っ白な光で満たされた広大な空間だった…。
「……。」
ハッとして目を覚ます。
気の狂ったドラマーが、尚も自宅ドアを叩きまくっている。
…先程まで燃え上がるかの様に暴れていた、身体の熱は嘘の様に引いていた。
ナオは自分がいつの間にか、白い冷蔵庫の前で突っ伏していた事に気がついた。
彼女は身を起こしつつ、こう呟く。
「一体何が…?」
そう、心の中に疑問符をつけたのもつかの間。
破裂音が鳴り響いて、彼女のすぐ横に金属板が弾き飛ばされて来た。
「!」
素早く立ち上がり玄関を見ると、郵便受けが完全に破壊され、血に塗れた人間の腕が一本、異常な曲がり方で侵入を試みている最中だった。
ナオは言った。
「…面白いじゃない。」




