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宇宙ヒトデ

彼女達は、とある研究室へ足を踏み入れた。

ドーム状の高い天井が二人の女を見下ろす。

ナオは薄暗い部屋の奥に、かなり大きな水槽があるのに気づいた。

麗華に促されるままに、彼女は最奥のそれに近づいて行く。


「……。」


水槽の中身がはっきりと見て取れる程に接近したナオはその内容物に、興味深そうに視線を落とす。

仄暗い、赤褐色の溶液の中に浮かび上がる、一抱えある実体。

彼女は珍しい虫を見つけた童女の様に、それを見つめている。


「……。」


五角形の星形の輪郭。

所々から這い出すかの如く、短い触手が伸びる。

星形の中央部分からは発疹の様な粒状の組織が、点々と末端を目指して広がる。

肉腫じみたその粒の一つ一つは、外側へ行くに従って棘状に尖り、やがて先端部分で鉄条網の様に絡み合い、末端を覆っている。

ナオは振り返り、麗華の方を向いて尋ねる。


「これは宇宙ヒトデですか?」


「そうよ。」


彼女は応じて頷き、部屋の隅に並べられたベッドの列の脇から、ナオに向かって手招きする。


「こっち。」


ナオはガラスの向こうの奇妙な生き物から目を離し、ベッド列の方へ歩んだ。


「ヒトデさんに感謝ね。今回貴方に投与するお薬の主成分はね、あのヒトデさん由来なの。」


ナオをベッドに座らせながら、麗華は告げる。

微かな動揺も感じさせず、コクリと頷く彼女に、麗華は尋ねる。


「嫌じゃない?」


「…いいえ。」


何でもないかの様に答えるナオに、彼女は再び問い掛けた。


「不思議な子ね。大抵の被験者が、その点を気味悪がるのだけれど…。もしかしてあのヒトデが好きとか…?」


謎めいた笑みを浮かべて、ナオは秀麗な顔をした研究員の問い掛けに応じる。


「ええ、もちろん好きです。だってあのヒトデから、色々な薬が作られたのでしょう?」


「そうね…。」


…二人は昨今の成長著しい、バイオ・テクノロジー分野における、一つの“起源”とも呼ぶべき、宇宙ヒトデについて軽く語り合った。

並のヒトデに遠く及ばない程の、強い生命力と再生力。

その遺伝情報と細胞組織を以て、近年の生命科学は未曽有の発展を遂げた。

今や人工培養肉や培養卵がスーパーやコンビニの店頭に並び、手頃な価格で購入できる時代だ。

ナオは少し楽しげな様子で話し続ける。


「チキン・ピザ味が大好きなんです。あれ、本物のお肉より美味しいです。」


「そう、それは嬉しいわね。あれもね、我がオーロック研究所の技術が使われてるの。」


言いながら彼女は部屋の奥の、大きな水槽に視線を向ける。


「宇宙ヒトデ様々だわ…」


十数年前、とある漁師が発見した、一群の新種のヒトデ。

余りにも自然離れした生態及び能力に、宇宙から来た様な生物、と言う意味でつけられた愛称。

人類を救う為、本当に宇宙からやって来たのかも知れない。

麗華は密かにそう、感じていた。

彼女は言った。


「では臨床試験を開始しましょう。これは人類を救う為の、大いなる事業なのよ。」


水槽内からは静かに、薬液を流動させるためのブーンという低く鈍い音が響いていた。

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