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ハイペリオン

「出淵ナオ。年齢19。身長164cm。体重は…」


石崎麗華(いしざきれいか)と名乗った、その白衣を着た若い女。

ナオと向かい合ったテーブルの向こうで手元にある資料を読み上げつつ、チラリちらりと時折、上目遣いで彼女を見上げる。

机の上に目を落としたままで、彼女は静かに尋ねた。


「家族は?」


「今、付き合いはありません。一人暮らししています。」


「ふうん。」


ボールペンの先をかちん、と紙上に打ち当てて、麗華は言った。


「まあ良いでしょう。行きましょうか。」


二人は立ち上がり、病院の診察室の様な、その白い部屋を後にした。


パステルカラーで彩られたコンクリート製の壁にカツカツと、四つの足が長廊下の床を打つ音が反響する。

ナオは歩きながら時折、鋭い視線を素早く、真横に走らせる。

彼女の蛇の様な瞳に、自分と同じくらいの高さの円筒状の水槽が台座に乗せられ、ところ狭しと壁際に並べられている光景が映った。

分厚い、ギラギラと光を反射する強化ガラスの向こうで猿の様な生き物の死骸じみた身体が、暗い青緑色の液中に浮いているのを見てナオは麗華に問いかける。


「すみません、水槽の中の、アレって死んでいるんですか?」


「嫌だわ。」


クスッと一瞬笑い、石崎麗華は白衣のポケットに片手を突っ込み、応じる。


「女の子はね、こういう時生きているんですか?って聞くものよ。」


「…そうですか?」


「そう。」


麗華はナオの方を振り返り、言う。


「死んでいるんですか?なんて無粋じゃない?男の子から嫌われるわよ。」


「……。」


黙ったまま、ナオは歩いて水槽の一つに近づき、ガラスの表面に顔を近づける。

魚と、人型をした何かが、歪に融合したかの様な、混合体。

それが、暗い色をした溶液が満たされた中に、浮いていた。

背後から麗華が近づいて来る。

二十代後半と思われる、彼女の知的そうな顔が、水槽の表面に映り込んで浮かび上がる。

肩越しに、この女性研究員がナオに問いかける。


「怖い?」


「…いいえ。」


彼女は振り向き、麗華に尋ねた。


「別に何だとは思いません。私達と違う姿をしているだけです。」


「そう。」


そう言って背を向け、麗華は再び歩き始めた。

ナオもその後ろ姿に続く。


「今回の治験で、あんな姿になる心配はないから、安心して。」


石崎麗華は言う。


「偉大なる我が“オーロック研究所”の最新式の免疫強化剤、“ハイペリオン”。あなたは、その最初の被験者になるのよ。」


「……。」


真新しい、誰もいない暗い廊下を、二人は迷う事なく、まっすぐに歩いて行った。

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