転がし、転がり、転がった。
大きな自動扉は開き、黒くニヤける二人の背中を見送る。
ヒロはレオンと顔を見合わせる。
「……レオン」
「承知した」
阿吽の呼吸だった。
ヒロとレオンは二人の背中を追った。
行き先は──競馬場。
観客席の先に広がる青い芝生。
地響きのような馬の足音が轟く。
マキシムは耳に赤鉛筆をかけ、新聞を広げる。
ノアはぼんやりと青空を見上げていた。
「やっぱ狙いは十一レースだろ」
「……そう?」
「とりあえず、それまで他レースで転がすぜ!」
マキシムは意気揚々と複勝にマークをつけた。
ヒロは怪訝そうに眉を寄せる。
「……なんだよ。転がすって」
レオンがマキシムの後ろから新聞を覗き込み、口を開く。
「当たりやすいところに賭けて地道に増やすってことだな」
「おうよ!オッズ……倍率は低いけどな」
「へぇ〜」
ギャンブルに疎いヒロは素直に感心していた。
「俺もやってみようかな」
「おっ、俺が教えてやるよ!」
マキシムはヒロの肩を力強く叩く。
そして親指を立てた。
「まずはパドックだ!」
「ん?ああ」
マキシムは嬉しそうにヒロの背を押す。
レオンはノアの隣に座る。
「本当に大丈夫なのか?」
ノアはあくびをしながらレオンを見上げる。
「マキシムのやつフラグ立ちまくってるぞ」
「レースは荒れないとね」
ノアはクスッと笑う。
「じゃあ僕たちも行こうか」
「?」
ノアはレオンを引き連れてある場所へ向かうのだった。
パドックでは十頭以上の馬が列をなして歩く。
威圧感や緊張感が伝わってくる。
「近くで見ると馬の筋肉エグいな」
「その筋肉のハリを見ろ!」
「……素人だぞ、俺は!」
マキシムは新聞と睨めっこする。
ヒロに新聞を見せ、指をさす。
「この三番ヤレバデキルオウ。こいつが勝つ!」
「……本当か?」
ヒロはジト目でマキシムを見る。
「間違いねえ!あの筋肉の動き……他のやつより圧倒的に仕上がってる!」
マキシムは得意げに胸を張る。
「まっ、俺は百円しか賭けねえからな」
ヒロは財布から百円玉を取り出した。
マキシムはポケットから札束を取り出すと数枚引き抜く。
「俺も様子見でこんくらいにしとくわ」
「様子見って……五万も!?」
ヒロは思いっきり引いた。
「ヒロ、もう馬券買ったの?」
ノアがビールを片手にやってくる。
もう片方の手には串カツ。
「……何やってんだよ」
「げんかつぎ」
ノアの後ろを歩くレオンは、モツ煮とビールを乗せたトレイを持つ。
モツ煮からはふわりと湯気があがる。
ヒロは息を吐いた。
「……俺も買いに行く」
「おい、ヒロどこ行くんだよ!券売機は──」
ヒロは札を振るマキシムを置いて売店へと向かうのだった。
ビールとモツ煮を抱えたヒロは観覧席に戻り、青空の下で競馬場を満喫していた。
「このモツ煮しっかり煮込まれててうまいな」
「ヒロ、モツ煮には冷酒が合う」
「お前、分かってんな!」
ノアはレオンからビニール袋を受け取ると、カップ酒を取り出し、ヒロに手渡す。
ヒロとノアは、ぼんやりと青空を眺め酒を啜った。
その横ではマキシムが新聞を丸め、声を荒げていた。
「おいっ!このっ刺せぇ!たのむぅ刺してくれぇ!」
必死だった。
観客席には項垂れたマキシムが残された。
軍資金は底をついていた。
レオンが哀れなものを見るように呟く。
「十一レースまでに転がって消えたな」
「……うるせぇ」
ノアは最後のカップ酒を飲み干すと立ち上がる。
「そろそろやるか」
「……ノア、俺の仇をうってくれ!」
ノアはくるりと振り向く。
金色の髪がなびき、キラキラと輝く。
「次のレースは荒れる!」
ノアはドヤ顔だった。




