履歴書それは君が見た光
黒い車の中でレオンはうっとりと色紙を見つめる。
ヒロは眉を寄せながら車に揺られていた。
「よく分かんねえけど、サインもらえて良かったな」
「ああ。これは家宝にするつもりだ」
「……そうか」
ヒロはそっと視線を逸らし、窓の外を覗いた。
「こっちはまだ昼過ぎか」
「短時間でも違和感があるな」
「もう行きたくねえ……」
ぽろりとヒロの本心が漏れる。
ふと、ライトが言っていた情報の対価が頭を過ったがヒロは忘れることにした。
自分の胃を優先した。
黒い車は施設に到着する。
エレベーターに乗り込み最上階へ向かう。
セレスの部屋の大きな自動扉が開く。
「お帰りなさいませ」
サクラが丁寧に頭を下げる。
ヒロはホッと息をついた。
「ただいま。サクラ」
サクラは優しく微笑む。
ヒロの後ろにレオンを見つけると、パタパタと椅子に置かれた布を丁寧に手に取る。
サクラは一着のジャケットを手にレオンに差し出した。
「洗濯しておきました」
レオンは目を見開く。
ノアに汚された相棒が自分の手の中に戻ってきていた。
黒いレザーが艶やかに輝く。
「サクラ……か、感謝するっ!」
レオンは感無量だった。
大きな手はジャケットに触れ、質感を確かめる。
丁寧な仕事が見てとれた。
レオンはサイン色紙と相棒を両手に抱える。
「……俺は幸せ者だ」
目を細め、天井を見上げる。
目尻には輝く水粒が浮かんでいた。
「良かったな」
ヒロは若干引き気味にレオンの肩に手を乗せた。
優しい空気が部屋には流れていた。
奥の部屋からザビィが不機嫌そうにやってきた。
ガラスのテーブルの椅子に座る。
「ヒロ、これ」
ザビィは叩きつけるように白い紙をテーブルの上に置いた。
「なんだ?」
ヒロは白い紙を手に取る。
見覚えのあるフォーマット。
ザビィの殴り書きの文字が並ぶ。
『履歴書』
「りれきしょ!?」
「アイツ……ノアがヒロに渡せってよ」
ザビィは苛立った様子で悪態を吐く。
「書き方分かんねえし、適当に埋めたけどよ」
「全部埋めれるだけ上出来だろ」
レオンは経験者として呟く。
ヒロはとりあえず、文字を追う。
「特技……銃の分解、改造。体術」
「志望動機……書けと言われたから……」
ヒロは静かに眉間を手で押さえた。
テーブルを叩く。
「どいつもこいつも履歴書くらい書けるヤツいねえのかよ!」
レオンの肩がピクリと動く。
レオンもまたヒロの世話になった一人だった。
ザビィはレオンの手元に気付く。
「おい、レオン。何持ってんだ?色紙?」
レオンはニヤリと口元を歪めた。
「……見たいか?」
「おいおい、焦らすなよ」
レオンは得意気に色紙を見せつける。
ザビィは目を丸くし、立ち上がる。
「嘘だろ……Hummerに会ったのか!?」
「伝わんのかよ!」
思わずヒロが突っ込む。
「ヒロ、だから言っただろ。伝説級だ」
「レオン!も、もっと近くで見せてくれ!」
「仕方ないな。汚すなよ」
「んな罰当たりなことするか!」
ザビィとレオンのHummerトークは止まらない。
ヒロは椅子に座り、履歴書の添削を始めた。




