無法地帯で胃痛は始まった
黒い車は繁華街をひたすら走る。
赤く大きな門が目を引く建物の前で車は止まる。
レオンとヒロは車を降りた。
二人の間に会話はなく静かだった。
赤く輝く門が禍々しく見えていた。
門の前にはやけにガタイの良い男達が立っている。
「……行きたくねえ」
ついにヒロの心の声が漏れ出た。
レオンは背中を向け歩き出す。
「ヒロ、こっちだ」
「なあ……やっぱ行かないとダメか?」
レオンは振り向かずに呟く。
「……アイツ、羽目外してるかもな」
「は?」
「中はほぼ無法地帯だからな」
「無法!?」
「今頃、調子乗ってヤバいことしている可能性があるぞ」
「なっ……」
ヒロは今すぐにでも帰りたかった。
しかし、自分の奴隷が他人に迷惑をかけることは見過ごせなかった。
ヒロは大きく溜め息をつき、歩き始めた。
屈強な男達がヒロを見下ろす。
レオンと交互に顔を見る。
「あなたはヒロ様ですね!」
「……そうだけど、何で知って──」
「ヒロ、行くぞ」
大きな門がゆっくりと開かれる。
ヒロはレオンに背を押されながら建物の奥へと進む。
門のその先にはネオン街が続く。
天井には無数の星空が広がっていた。
「……まだ昼だったよな」
「奴隷街と同じ仕組みだ。そのうち時間の感覚も麻痺していく」
「まるで竜宮城だな……」
ヒロは呆れたように息を吐いた。
その背後では赤い門が音を立てて閉まっていく。
「行くか」
ヒロは覚悟を決め、ネオンの輝く道を進む。
黒と金色の看板がギラギラと輝く。
『BLACK COLLAR』
「……ここか」
「三男のライトの店だな」
「行きたくねえ」
二度目の心の声が漏れた。
店内を覗くと、派手なステージを取り囲むように並ぶ観客席。
スポットライトが銀色の棒とダンサーを照らす。
「ポールダンスか!本格的だな」
「前はストリップショーだったが……」
「はぁ?まじかよ」
ヒロは店内を見回す。
ダンサーは黒い首輪を付けていた。
「……ブラックカラー、か」
「ヒロ、控え室に行くぞ」
「勝手に良いのか?」
「アルヴァルトからは許可を取っている」
ヒロは急に不安が込み上げてきた。
二人は後ろの席から回り込み、スタッフ専用と書かれた扉を開ける。
長く続く廊下を進んだ。
レオンは迷うことなく他とは違う色の扉をノックする。
「はぁ〜い」
軽い返事。
扉を開くと二人は固まった。
纏められたウェーブがかった髪に垂れ目の男が微笑む。
「レオン、ヒロさん、いらっしゃい」
柔らかく人懐っこい声。
隣には金色の髪をまとめ、露出の多い服を身につけた男が座っていた。
ライトは男の顎に手を置き、顔を近づけている。
男の首には黒い首輪が揺れる。
「ノア!何してんだ!」
ノアは不思議そうに首を傾げる。
「出稼ぎ」
「それは知ってんだよ!」
「ライト義兄さんにメイクしてもらってた」
ライトは手に持った筆をクルリと回す。
慣れたようにノアの唇を筆でなぞると指先で馴染ませた。
「はい。完成」
「うん、まあまあかな」
ヒロは眉を寄せながら恐る恐る聞く。
「ノア……まさかその格好で……」
「踊るけど?」
さも当然のように答える奴隷にヒロは腹部を押さえた。




