糸目キャラの開眼はガチ
ぐったりと座敷に横たわる男。
座卓の上には空いたグラスが並んでいた。
最悪だった空気はゆっくりと和らいでいた。
ユーミルはグレープフルーツをステンレス製の絞り器に押し当てながら口を開いた。
「ステラがまさか年上好きだったとはね……しかもノアの父──」
「好きとかじゃないから!」
「……そうは見えなかったけど」
ユーミルは絞り器を横にいたレオンの前に置いた。
レオンが軽くグレープフルーツを捻り押し込むと皿から溢れるほど果汁が一気に染み出していく。
レオンは絞り器をユーミルに渡すと、自分なりにステラのフォローを始めた。
「サイラス……まあ見た目は悪くないからな」
「だから違うっての!人の話聞け!この筋肉バカ!」
レオンは目を丸くした。
その後ろでは、イヴがレオンの上着をノアにかけていた。
ノアは何も言わずに丸まった。
イヴはくるりとノアに背中を向け、座卓のオレンジジュースを手に取った。
「もう!そういうんじゃなくて強くなりたいからでしょ!」
イヴは息を吐きながら、呆れたように口を開く。
ニコはイヴの顔を覗き込んだ。
「でもさぁ、ノア君のお父さんカッコいいよねぇ」
「まあそれは否定しないけど……ア、アタシはやっぱりノアの方が──」
ハルトがニヤけながら立ち上がり、マキシムと肩を組んだ。
こそこそと耳打ちをする。
「なあ、確かめようぜ」
「確かめるだぁ?んな方法あんのかよ?」
マキシムは頭を掻きむしる。
ハルトは酒を見せつけるように振った。
「おまっ、それは人としてどうなんだよ!」
「自分の口で割る分には問題ないね」
ハルトは目を細めると口元を歪めた。
「おーい。ステラ喉渇いたろ?」
ハルトはグラスに入ったお茶を手渡す。
「ありがと。ハルト」
ステラはストローでお茶をすする。
そして、みるみるうちに頬が赤くなる。
ストローから唇が離れた。
その瞬間。
「ノアァァ!いなくなるの寂しいぃぃ!」
泣き上戸のステラが叫び出す。
ノアは上着を被り、さらに身体を小さくした。
「今まで一緒にやってきたじゃん!」
目からは大粒の涙が零れる。
思わずイヴの目も潤む。
「アタシもみんなと離れるのヤダァ!」
「イヴ、お前はまだパートだろぉ?」
マキシムが咄嗟に訂正する。
ユーミルは髪をくるくると指に絡めた。
「おそらくサイラスはノアをこちらの世界から足抜けさせようとしているんだろうね」
「え?」
イヴはきょとんとユーミルを見上げる。
「主人であるヒロさんと生きる道が残っているからね」
ヒロは箸で掴んでいた浅漬けを落とした。
「俺!?」
ユーミルはクスッと笑い頷く。
グレープフルーツサワーの入ったグラスをマドラーで軽くかき混ぜた。
「僕の読みではサイラスはステラに花嫁修行をつけようとしているんじゃないかな」
「花嫁ぇ!?んな柄じゃねえだろ!」
マキシムが本音を漏らす。
「まああくまでも予想だけどね」
ハルトはニヤニヤと悪戯そうに笑いながら口を開いた。
「ステラ、お前はノアとサイラスのどっちの花嫁になるんだ?」
「おい!ハルト、酔ってるやつにそれは──」
マキシムが慌ててハルトを止める。
「……ト」
「えっ」
イヴが目を丸くして、大声を出さないように口元を押さえた。
潤んだ目を細めたステラはもう一度、ある男の名前を口に出した。
「ハルト……がいい」
静かになる居酒屋。
いつも糸目のハルトの目は開眼していた。




