ご主人様、今日から無職です
最悪な空気が流れていた。
いつもならムードメーカーのはずのノアは項垂れ、酒を飲み続けていた。
完全にヤケ酒だった。
「ノア、飲み過ぎだぞ」
ヒロは、目の前に置かれた徳利を取り上げた。
ノアはヒロを睨みつけた。
お猪口から湯呑みに変わり、水のように喉を潤す。
アルヴァルトとサイラスはゆっくりと腰を上げた。
「私たちはこれで失礼するよ」
「二件目があるからな」
「こんな息子を置いて、はしご酒かよ」
さっさと歩き出す二人の背中にヒロがぼやいた。
ユーミルは小さく頭を下げた。
座卓に頭を乗せ俯くノア、湯呑みに注がれた酒を覗き込む。
深いため息が漏れ出る。
「……こいつどうすんだよ」
ヒロの呟く声が部屋に響き渡った。
ユーミルはノアの前に座り、声をかけた。
「ノア、君はこうなる事を予期していたんじゃないか?」
「確かにナース服も短かったしな」
ハルトがニヤけながら唐揚げを頬張る。
「関係あんのか?それ?」
マキシムは頭をガシガシと掻きむしった。
ノアは揺れる水面に自身を映す。
「まだ先のことだと……サイラスは僕の想定よりも打たれ弱かったらしい」
ノアはゆっくりと顔を上げた。
その目はどこか潤んでいる。
「ユーミル、引き継ぎがあるから……明日までにデータを送っておくよ」
「しばらく派手な動きもないだろうし、ゆっくりでいいよ」
ヒロは取り上げた徳利を手酌しようと傾ける。
ノアが手を伸ばし、ヒロのお猪口に酒を注ぐ。
「……ヒロ、僕……」
「今日はとにかく飲め!最後まで付き合ってやるよ」
イヴがノアの隣に座り、腕をぎゅっと掴んだ。
「アタシも付き合う!……か、彼女だし!」
イヴは顔を赤くしてノアに寄りかかる。
隣にニコも座ると、ふんわりと笑って見せた。
「ノア君、いっぱい飲んでいいよ」
ノアは一気に湯呑みの酒を飲み干す。
「っ、……無職かぁ」
ヒロはフッと笑って湯呑みに酒を注ぐ。
「お前には俺のコンカフェがあるだろ」
「……またメイド服の日々か」
「お前、好きだろ。あのメイド服」
ノアはピタリと手を止めた。
ゆっくりと顔を上げ、ヒロを見つめる。
ヒロはあからさまに眉を寄せ、警戒心を強めた。
「……なんだよ」
「いい事考えた」
「……俺を巻き込むなよ」
「どうかな?」
ノアは口角を上げ、座卓の端に座る男を指差す。
レオンが目を見開いた。
「俺か!?」
「……違う。避けろ筋肉バカ」
レオンはガックリと肩を下げると座卓から少しだけ体を離した。
現れたのは裏切り者のザビィ。
存在を消し、一杯目のビールをちびちびと啜っていた。
「なんだよ……仕返しに処刑配信でもすんのかよ」
「まさか。そんなものよりずっと有意義だよ……」
ノアは不敵に微笑む。
そして、体を丸め座敷に横になった。
「な、んか……き、気持ちわる」
「そりゃ飲み過ぎだろ」
ヒロのため息が居酒屋に響いていた。




