才能はまわりを殺す
「ノアはサンクチュアリから除名する」
静まり返る居酒屋。
ヒロは串を持ちながら首を傾げた。
「……つまり、どういうことだ?」
ノアは勢いよく立ち上がる。
「義父さん、僕はサンクチュアリのために全てを注いで──」
「ノア、まあ座りなさい」
アルヴァルトはやけに優しい声を出す。
サイラスは変わらず、鋭い視線を向けたままだった。
「……珍しく慌ててんな」
マキシムはユーミルに耳打ちする。
ユーミルは髪の毛をくるくると指に絡める。
「マキシム、これは大変なことだよ。まあ、君のようにその日暮らしを得意とする人間には理解出来ないと思うけどね」
「……お前、俺をこき下ろさないと話せねぇのか!」
ユーミルは静かに生おろしレモンサワーを口にした。
「サイラスとも話したんだよ」
サイラスは腕を組む。
「エリアス、お前は場を乱しすぎる。サンクチュアリには必要ない」
ノアは唇を噛み締め、サイラスを鋭く睨む。
「僕は、合理的に犠牲を最小限に」
「だから、それは必要ない」
冷たく言い放つサイラス。
アルヴァルトはそっと眉を下げる。
「ノア、エクリプスの頭もユーミルに委ねるよ。いいね」
ユーミルの肩がビクッと跳ねた。
マキシムと目を丸くして顔を見合う。
「僕は……役に立ちませんか……」
「そういう意味ではないんだよ」
アルヴァルトはノアの手を引き、座らせる。
ゆっくりと諭すように話す。
「ノアの合理的な対処は素晴らしい。しかし、周りは何も得られない」
サイラスは深く頷く。
「お前がチャンスを刈り取っている」
冷たいが的確な意見だった。
ノアは何も言い返せずに静かに視線を落とした。
「……誰かが犠牲になってからでは──」
「例え犠牲になろうとも、そいつの選択だろう。お前が気にすることではない」
ノアはゆっくりと顔を上げた。
その青い目は揺れる。
「……冷たいですね」
サイラスはフッと笑う。
「お前が甘過ぎる」
「ノア、君が私たちの息子であることは変わらないよ」
アルヴァルトは改めて手を叩いた。
「ノアはサンクチュアリ並びにエクリプスを除名」
「エクリプスの後継はユーミル。以上だよ」
ユーミルの背中をマキシムが叩く。
「よっ!エクリプスのトップ!」
「……これは拒否出来そうにないね」
ユーミルはアルヴァルトとサイラスに向かい、軽く頭を下げた。
サイラスは立ち上がるとイヴの隣に向かい、ステラを見下ろす。
ステラは目を開き、体を起こした。
「……なに?」
「ステラ、お前は俺と来い」
「は?」
アルヴァルトは立ち上がろうとするノアを制する。
サイラスはフッと微笑むとステラの手を取り立たせた。
バランスを崩したステラはサイラスの胸の中に包まれる。
「お前は強くなる。俺が育ててやろう」
「……」
ステラは何も言わずに見上げる。
少しだけ目を細める。
「いいけど」
短い返事。
「……嘘」
ノアは目を見開き呟いた。
ヒロは狼狽えるノアを観察し、ニヤけていた。
いつもの仕返しのつもりだった。
イヴは恐る恐る手を挙げ、口を開く。
「アタシ……ノアがいないならエクリプスから抜ける」
「はあ!?」
マキシムが声を荒げる。
「何言ってんだよ!お前がいなきゃ誰がハッキングすんだよ」
「だって、アタシ……ノアに助けてもらったから、だし」
アルヴァルトとサイラスは目配せをする。
「構わないんじゃないか?」
「エクリプスはもうヨゴレをやる必要も無くなるしな」
「イヴはパートタイマーにして……」
「パートォ!?」
思わず突っ込むマキシム。
アルヴァルトとサイラスは止まらない。
「その分、レオンをどちらにも在籍させておけば……」
「たしかに十分事足りるな」
レオンは自分の名前が呼ばれた気がしたが、聞こえないフリをしてジョッキを傾けた。




