子は天の美禄
広々とした座敷に置かれる重厚な座卓。
後ろに広がる金屏風。
一番奥の上座に妙に絵になる二人の男が座る。
すでに座卓の上には定番と思われる皿が並んでいた。
アルヴァルトはヒロに向かって手招きを繰り返す。
「さあ、こっちで盃を交わそうじゃないか」
ヒロは無言でセレスを睨みつけた。
セレスは下を向き、ヒロの背中をそっと押した。
ヒロは溜め息を吐くと靴を脱ぎ、座敷に上がった。
年輪が浮かび上がる座卓の前にヒロは腰を下ろした。
アルヴァルトがお猪口を渡し、徳利を傾ける。
ヒロは嫌々、お猪口を添えた。
「さあ、一気にいってくれるかい?」
ヒロはお猪口の中で揺れる透明な液体を見つめる。
一気に傾け、喉を大きく動かした。
「素晴らしい」
アルヴァルトは嬉しそうに目を細めた。
サイラスは胡座をかき肘を置く。
「……これで私たちは家族だ」
「また子供が増えてしまったな」
「賑やかになるね」
目を合わせほくそ笑む二人。
「……は?」
ヒロは顔を上げアルヴァルトとサイラスの顔を交互に見つめる。
状況が全く飲み込めない。
ゆっくりとセレスに視線を送る。
セレスはヒロの後ろで三つ指をついていた。
いや、土下座をしていた。
「……いや、ちょっと待て!」
思わずヒロは立ち上がる。
「俺はただ、酒を飲んだだけで」
「私が注いだ酒を、ね」
「いや、そうだけど……聞けよ!」
サイラスはメニューを開き始める。
アルヴァルトは嬉しそうにまた徳利を差し出した。
「まあ、細かいことは良いじゃないか」
「細かくねえだろ!」
「君が騒ぐとセレスがいつまでもそのままだが?」
お猪口を振りながら指さす。
ヒロは横目に深々と頭を下げ続けるセレスを見る。
「くっ、……後でしっかりと訂正してもらうからな」
ヒロは雑に座り直すとアルヴァルトの徳利を奪い、傾けた。
アルヴァルトの持つお猪口に波紋が浮かぶ。
「それでいい」
怪しく微笑むアルヴァルトの横で、サイラスは串盛りを注文するのだった。
「お待たせしましたー!」
活気の良い声と共に座卓に串盛りが運ばれる。
五種の串が湯気を立てていた。
サイラスが手を伸ばす。
その前にヒロが一本を掴み、自分の皿に乗せた。
「おい!それは俺の砂肝だ」
サイラスは皿を指さす。
ヒロは熱々の串を掴むとサイラスの目の前で砂肝を口に放った。
「このっ……!」
サイラスは拳を握り、座卓を叩く。
ヒロはそのまま日本酒で流し込んだ。
「やっぱ串は砂肝からだよな」
「お前……分かっているなら何故!」
ヒロは機嫌がすこぶる悪かった。
サイラスはヒロを睨みつけると再びメニューを開いた。
セレスは小さくなり、ちびちびと枝豆を剥いていた。
その時、入店の音が鳴り響く。
「いらっしゃいませ!」
「すみません。グルメチョイスで予約した……」
ユーミルはスマホを店員に見せながら話しかける。
ちらりと横目に映る男達を見ると、思わず二度見した。
「……そういうことか」
眉間を押さえ、小さく呟いた。
その後ろから笑顔で入店するエクリプス幹部達は、先客を見るなり次々と感情を消していく。
「やあ、待っていたよ。私の子供達」
嬉しそうなアルヴァルトが手を招く。
その横ではサイラスがメニューを指さし再度注文する。
「やっぱ、そうなるよな……」
ヒロは静かに呟き、お猪口を傾けた。




