戦闘よりペットの散歩を優先します
二人のステラが蹴り合う螺旋階段の下は、赤い水が湧き上がるように広がっていく。
サイラスとアルヴァルトは真剣に歓迎会についての話を詰めていた。
「しかし、立食では足が疲れてしまうかな」
「アル、足腰を鍛えるという点と長居を避けるという利点があるだろ」
アルヴァルトは手を叩いた。
「それもそうだね」
「問題は立食メニューだろう」
サイラスは顎に手を置く。
後ろから迫りナイフを振るう男の首元を振り向き様に殴打する。
男はぐしゃりと崩れ落ちた。
「やはり洋食か」
サイラスは何ともないように話を続けた。
螺旋階段の上で長い脚を蹴り上げる本物のステラは、目を細めていた。
「アイツ。一撃で……」
ステラの変装に飽きたハルトは元の顔に戻した。
「さすがノアの父親。容赦ないねぇ」
「……」
ハルトは黙り込むステラの様子を窺う。
ステラの肩を軽く叩き、耳元で態とらしく囁いた。
「もしかして、妬いてる?」
ステラは銀色のナイフをハルトに投げつけた。
「うぉっ!危ねっ!」
「……はあ?そんな要素ないでしょ」
「そう?」
ハルトは面白そうにニヤニヤと口角を上げる。
それでもステラの目は、サイラスから離れなかった。
「キリがねえな……兄貴そろそろ終わらせても良いんじゃねえか?」
胸元の開いた派手なシャツが揺れる。
カイは両手に押さえ込んだ男を壁に叩きつけた。
「……まだ選別がな」
ルシアンは目を光らせながら指をさした。
「おい、そこのヤツは使えそうだ。潰さずに連れて行け」
「まだやんのかよ」
カイは軽く肩を回した。
その時、廊下の奥からどよめきが起こる。
ルシアンの部下に捕えられた男が目を見開き、声を漏らした。
「……嘘、だろ」
カイとルシアンは眉を寄せ、深い溜息をついた。
「義兄さん、選定は終わりましたか?」
カイは舌打ちをし、近くに転がる男を蹴り上げた。
瓦礫に塗れた道をナース服のノアは楽しそうに歩いていた。
カツン、カツンとヒールの音が響く。
ノアの周りには首輪を付けられた旧中枢の幹部達が四つん這いで練り歩く。
その表情はやや虚げだが、ニコリと頬が上がっていた。
「老犬が多くて、時間がかかってしまいました」
ノアは徐ろに近くの幹部の頭を撫でた。
幹部は幸せそうに舌を出す。
「お゛えっ……気持ちわりぃもん見せんな!」
カイは視線を逸らし、背を向けた。
ルシアンは握っていた銃をホルスターに戻す。
「遅いと言いたいところだが、丁度いいタイミングだ」
「あちら側の戦意が完全に喪失したようだ」
カシャン。
男達は床に武器を落とし、両手を上げる。
「選別続行だな」
ルシアンはフッと口元を緩めた。
「じゃあ、義兄さん。僕はペットのお散歩があるので」
ノアは当たり前のように言い放ち、リードを軽く引くとペットの散歩を続けた。
「それにしても瓦礫が多くて歩きにくいな……」
「散歩中にペットの足の裏が傷ついちゃうよ」
ノアは軽く瓦礫を蹴飛ばすとふんわりとした赤い絨毯の上を進む。
四つん這いのペット達はぞろぞろとノアの後ろを追った。
カイは横目でノアとペット達を見送る。
「……あんなバケモノ連れてきやがって」
小さく呟き、舌打ちを鳴らした。




