ご主人様はお見通し
「あれ?……寝ちゃった」
目を擦りながらベッドから這い出たノアは、部屋を覗くセレスに声を掛けた。
「なに見てんの?」
ノアはセレスの隣から覗き込んだ。
そこには説教するヒロと正座し小さくなるレオンがいた。
ザビィはあたふたと慌てた様子でヒロに声をかけるべきか悩んでいた。
「あなたの主人は恐ろしいですね」
「ヒロ?どうせレオンが余計なこと言ったんだろ」
ノアはあくびをしながら、腕を伸ばした。
「黙っとけばすぐ終わるのに」
「全くあなたは……」
セレスは呆れたように目を細めた。
ノアはヒロのもとに向かった。
「ヒロ、そのくらいにしてあげてよ」
ヒロは目を細めるとノアを睨みつけた。
ノアは一瞬で遠くを見つめるような目をした。
「ノア!お前ザビィに酷いこと言ったらしいな!」
「……」
「出来損ないだったか?人に対して言う言葉じゃないだろ!」
「……」
「ザビィに謝れ!」
ノアは大きく息を吸った。
「やだね」
「はあ?何でだよ!」
ノアはザビィを指差した。
「コイツが出来損ないってことは揺るがない事実」
「お前……!」
「ヒロ、俺のことはもういいって……」
ザビィが遠慮がちに口を出した。
「同じ施設で育った仲間なんだろ!傷つけるようなこと言うんじゃねえ!」
「施設にいただけで仲間じゃ──」
レオンがふと思い出した。
「なら何で遺影写真のフォルダに、施設の集合写真入れてたんだ?」
「……」
「遺影?」
ヒロが眉を寄せた。
「ノアのPCに準備されてたんだ……ザビィお前の写真もあったぞ」
「え」
ザビィは目を丸め、ノアに視線を向けた。
「……別に無選別だっただけ」
「いや、それはないだろ」
ノアは正座するレオンに蹴りを入れた。
「こら!ノアッ!」
ヒロはノアも隣に正座させた。
説教はまた一から始まったのだった。
ヒロの説教が終わると部屋の奥からセレスが顔を出した。
「……やっと終わりましたか」
「悪いな。ちゃんと言わないと分かんねえからよ」
ヒロは親指で背後を指す。
ヒロの後ろではノアが何事もなかったかのように立ち上がり、レオンの痺れた足を踏みまくっていた。
レオンの呻き声が小さく響いていた。
セレスはそっと視線を逸らす。
「拠点奪還チームは中々苦戦しているようです」
「やはり貴方方が欠けているのが大きいのでしょう」
ノアはレオンを甚振り、満足したように口角を上げた。
椅子に腰を落とすと頬杖をついた。
「あのメンバーでも奪還できると読んだのはユーミルだからね。彼に任せるよ」
「かなり押されているそうですが」
「僕は行かない」
「……そうですか」
セレスは眼鏡をクイッと上げると、レオンに向かった。
「レオン、あなたは?」
「俺が行く」
レオンは壁にもたれて足を引き摺りながら歩き出した。
「おい、それで間に合うのかよ」
ザビィが思わず声を出した。
「間に合わせる!」
「……無理だろ」
ザビィは大きく息を吐くとレオンの腕を肩に乗せた。
「俺も……その作戦に乗ってやるよ」
レオンは数回、瞬きを繰り返す。
「お前!さてはまた……」
「裏切らねえよ!もうアイツなんてどうでもいい」
ノアはクスッと息を漏らす。
「ザビィ、レオンと行きたいなら条件があるよ」
「……別に行きたいとかじゃ」
「お前は銃を使うな。体術のみ可」
「は?」
レオンは小さく吹き出した。
「確かにザビィ、お前の射撃は酷いものだったな」
ザビィは何も言わずにレオンの足を踏んだ。
レオンは大人しくなり、部屋を出て行った。
二人が部屋を出るとノアはテーブルに頬をつけた。
「セレス……薬」
セレスは何も言わずに錠剤と水のペットボトルをノアの横に置いた。
ヒロは眉を寄せ、ノアのおでこに手を当てる。
「そんなに悪いのか?」
ノアは小さく笑う。
「ヒロ、別に熱じゃないから……これはただの痛み止め」
ノアは薬を水で流し込んだ。
「そんなに痛いのか」
「まあ普通に」
「普通の痛みって何だよ!」
ヒロは控えめに突っ込んだ。
「お前、ザビィに何で出来損ないなんて言ったんだよ」
「……」
「お前らしくないだろ」
「らしくない?」
ヒロは深く頷いた。
ノアはヒロを見上げ、少しだけ眉を下げた。
「……向いてないから」
「何に」
「裏」
「……そういうことかよ」
ヒロは深く息を吐いた。
そして、何も言わずに背中を軽く叩いた。
「い゛っだぁ!」
「わ、悪い!」
セレスは眼鏡をクイッと上げると静かに微笑んだ。
「全く困った人ですね」




