ご主人様は無双する
施設のドアが開き、エレベーターで最上階へ上っていく。
レオンの背中に縋るノアは、小さく呼吸を繰り返していた。
「ノア、あと少しだからな」
ヒロが心配そうに顔を覗き込む。
そして気付く。
「……レオン、こいつ寝てるぞ」
「痛みで気絶したか?」
「いや、よだれ垂らして寝てる」
レオンはこのまま叩き起こそうかとも思ったが、万が一に備えて背負い続けた。
大きな扉が開くと、タブレット端末を操作する男が立っていた。
眼鏡をクイッと上げる。
カツ、カツと靴の音が響く。
セレスはレオンの背中で眠るノアを覗き込んだ。
「薬を用意しろと連絡がありましたが……必要なさそうですね」
レオンは小さく息を吐いた。
「レオン、あちらのベッドへ」
二人は奥の部屋へ姿を消した。
大きな扉が開き、一人の男が入ってくる。
どこか元気はなく、腹を押さえフラフラと近づく。
ヒロに気が付くと、目を細め睨みつけた。
すれ違いざまに小さく舌打ちを鳴らす。
「……初対面で失礼だろ」
「っ……」
思わず正論をぶつける。
男は椅子を引き、不機嫌そうに座った。
ヒロは何となく対面側の椅子に腰をかけた。
「……なんでそこ座んだよ」
「ここにいるってことは、お前もノアの仲間だろ?」
男は黙り込んだ。
「……仲間じゃねえよ」
「そうか、どこか怪我してるのか?」
ヒロは男の腹を指差した。
「これは……お前の奴隷が……」
「ノアがやったのか!?」
ヒロは思わず立ち上がった。
そして、頭を下げた。
「悪い!アイツたまに暴力的で、毎回叱ってはいるんだけど……」
「し、叱る?」
「ああ、ただ説教しても数分しか効かなくてよ」
男は吹き出し、腹を押さえながら笑った。
ヒロは少しだけ眉を下げ、椅子に座り直した。
「ぶっ。アイツ主人に叱られてんのかよ!だっせえな」
「お前、ノアとはどういう関係?」
男の表情からは笑みが消え、視線がやや下がる。
「別に関係ねえだろ」
「なくはねえよ」
男は少し黙り込んだ後、ぽつりと話出した。
「……俺はアイツから選ばれなかった」
「ん?選ばれない?」
「俺もここで学んだ。でもエクリプスに選ばれなかった」
「また英才教育かよ……」
ヒロは眉を寄せた。
異文化に飽き飽きしていた。
「お前、ノアに選ばれたかったのか?」
「……まあ」
「何か理由があるんじゃないか?聞いてみたか?」
「俺は……出来損ないだって」
「酷いな」
ヒロは立ち上がり、男を真っ直ぐ見つめる。
「悪かった」
深く頭を下げた。
男は目を丸くして、少しだけ慌て出した。
「い、いや。お前関係ないし、そこまで謝んなくていいって」
「いや、本当にいつか謝らせるから!」
「いいって!もう気にしてねえし!」
「絶対気にしてんだろ!」
「……」
「……」
二人はフッと頬を緩めた。
「俺、ヒロ。お前は?」
「知ってる……お前有名だからな。俺はザビィ」
「ザビィか。よろしくな」
ヒロが手を伸ばす。
ザビィもゆっくりとヒロの手を掴もうと手を差し出す。
その時──
「動くな!それ以上近づくな!」
レオンはザビィに銃口を突きつけた。
ヒロはレオンの形相に普通にビビっていた。
「お、おいレオン!落ち着け!」
「ヒロ、こっちに来い」
「はあ?」
「そいつは裏切り者だ。ニコを誘拐した実行犯だ」
「!」
ザビィは眉を寄せ、椅子にドカッと座る。
「ああ!そうだよ!俺がニコを誘拐した」
ヒロは目を細めた。
「なんでそんなこと……」
「コイツはエクリプスを乗っ取ろうと……」
「レオン、俺はザビィに聞いてんだ」
レオンは口を閉ざす。
ザビィは目を見開くと、小さな声で話し出した。
「アイツ、ノアを困らせて認めさせたかった……」
「俺は……出来損ないなんかじゃねえ!」
ヒロはザビィの隣に立つと、肩に手を置いた。
「気持ちは分かった。それでも誘拐はダメだろ!」
「っんなこと……分かってんだよ!」
「だよな。お前ちゃんと話通じるし、マトモだよ」
ザビィの肩をトンと叩くと背中を向けた。
ヒロはレオンを睨みつけた。
「レオン!お前はその物騒なモンおろせ!」
「いつも言ってんだろ!銃はダメだって──」
ここからヒロの説教は始まった。
レオンは肩を落とし、小さくなった。
そう見えた。
「なんなんだよ……コイツ……」
ザビィは小さく呟いた。
その表情は少しだけ柔らかかった。




