また会う日まで……
ヒロの背筋はゾクゾクと冷えていく。
アルヴァルトの毒気は完全に戻り、一般人とは程遠いオーラを放っていた。
「……契約継続?それって……」
「……ヒロ!逃げろ!」
ソファからなんとか立ち上がったレオンが声を荒げる。
「サイラスの狙いはお前だ!」
「え?俺?」
ヒロは状況が飲み込めず動けない。
レオンはヒロを庇おうと踏み出す。
しかし、サイラスの銃口がそれを許さない。
サイラスはフッと笑い、ヒロを指さした。
「アルヴァルト、あいつを殺せ」
ヒロの目が大きく見開く。
ハッとしてアルヴァルトに視線を移す。
アルヴァルトはスーツの内側に手を入れ、ホルスターから銃を取り出した。
「君のことは気に入っていただけに残念だ」
わざとらしくため息を吐く。
ヒロは両手を上に上げながら後ろに数歩下がる。
「おい……冗談だよな?」
アルヴァルトはニコリと頬を上げる。
銃のハンマーを起こす。
金属の音がやけに大きく聞こえた。
「あの世で会ったら一緒にワインでも」
「……死んでまでお前に会いたくねえよ!」
「振られてしまったな……実に残念だよ」
「うるせえ!」
ヒロはヤケクソだった。
「アルヴァルト!やめろ!」
レオンがアルヴァルトに銃を向ける。
その緑色の目は焦点が合わずに揺れ動く。
「そんな状態で私を撃てるのかい?」
「くっ……」
ノアは何ごともないかのように歩き出す。
レオンの銃口を下げた。
「ノア!……ヒロを切り捨てる気か!」
ノアはいつものような気怠そうな表情で小さく首を振った。
「レオン、言ったはずだよ」
「戦闘は不要」
レオンは眉を寄せ声を荒げる。
「現状を見ろ!お前の主人が……ヒロが」
「分かってるよ」
ノアはサイラスの前に立つ。
サイラスは楽しそうに口角を上げる。
「さあ選びなさい」
「自分の主人のためにアルヴァルトを殺すか?それとも主人を見殺しにするか」
ノアは小さく息を吐く。
メイド服のスカートを左右に広げて見せた。
「残念ながら、僕は銃を持っていません」
サイラスはフッと息を漏らした。
「そんなことか……」
自身が握っていた銃をノアに投げて渡す。
ノアはマガジンを外し、弾を確認する。
そして、銃をサイラスに向けた。
冷たい金属の音。
「なるほどな。俺を殺す、か」
サイラスは特に表情を変えず、笑い声を漏らす。
ヒロは冷や汗を流しながら、横目にノアを見た。
「……ノア!やめろ!自分の父親だぞ」
「え?もしかしてヒロ死にたい?」
「し、死にたくねえよ!でもお前に撃たせたくないんだよ!」
ノアはクスッと笑った。
「……贅沢だね」
サイラスは軽く腕を広げた。
「エリアス、さあ撃て」
「これでようやくお前は完成する」
ヒロは小さく呟く。
「こいつ狂ってる……!」
ノアは小さく肩を揺らす。
「……ノア?」
ノアはクスクスと笑い続ける。
そして、銃を手の中でくるりと回した。
小さな金属の音。
止まった先は──
自分のこめかみ。
金色の髪とヘッドドレスのリボンが靡く。
透き通るような青い瞳は細くなった。
「……ヒロ、またね」
幸せそうな表情と釣り合わない乾いた音が響いた。




