メイド服で黒幕のアジトに突入します!
差し込む日の光に反射したガラスのテーブルがキラキラと輝く。
ヒロとレオンは静かに待っていた。
向かい側にはアルヴァルトが優雅にティータイムを繰り広げていた。
長い脚を組み、紅茶の香りを楽しむ。
ヒロは隣に座るレオンに小声で話しかける。
「ノアのやつ、遅くねえか……」
「やけに張り切っていたからな……」
二人の脳裏には嫌な予感が走っていた。
「お待たせ」
一斉に振り向く一同。
白と黒を基調としたレースとフリルが揺れる。
ノアは何故かメイド服を着て立っていた。
「ノア!……何してんだ!」
「今から黒幕に会いに行くんだぞ!」
焦るヒロとレオンをよそに、アルヴァルトは興味深そうに顎に手を置く。
静かに数回深く頷いた。
「……なかなかいい趣味だ」
「この変態が!」
ノアは気にすることなく、くるりと回る。
ふんわりとスカートが膨らむ。
「ヒロ、相手の意表をついて隙を作る作戦だよ」
「……いや、絶対無理だろ」
レオンは腕を組んだ。
「いや、しかし相手はサイラス。予想できない分、案外効くかもしれんぞ」
「だとしたらただのバカ親だろ」
「親とは……そうなのか?」
レオンは首を傾げた。
「ほら、行くよ!」
ノアはヒロの肩を軽く叩いた。
くるりと踵を返し歩き出す。
頭のヘッドドレスのリボンが靡いた。
金色の髪がやけに輝いて見えた。
ヒロの妙な胸騒ぎは収まることはなかった。
ピンク色のエリザが筋肉質な腕を伸ばした。
住宅地にある建物を指をさす。
「ここが我が家……愛の巣よおン♡」
ヒロは眉を寄せ、建物の上を見上げた。
「……普通のマンションだな」
「そぉよ。素敵でしょ♡」
「ここにサイラスが──」
「サイラスちゃんはイケおじなのよ〜」
ヒロは眉を寄せてエリザを見上げる。
「お前、自分の恋人を差し出していいのか?」
「んふっ私にとってノアは子供みたいなもんよ。傷つけられたなら黙ってられないわ」
メイド服のノアはじっとエリザを見つめる。
「母さん……」
「あ〜ン♡」
「だからやめろっ!」
玄関の前に立ち、ガチャガチャと鍵を開ける。
ゆっくりと扉が開く。
ヒロはゴクッと喉を上下に動かした。
扉の先では一人の男が上半身裸で立っていた。
右手には歯ブラシ。
ゴシゴシと左右に動かす。
「……」
「あら〜ン♡」
男はそのまま何も言わずに奥へ向かう。
数分後、首に巻いたタオルで口を拭いながら玄関の前を通り過ぎた。
鍛えられた背中には無数の傷跡。
普通の人間ではないことが一目で分かる。
エリザはハイヒールを脱ぐとサイラスの元へ駆け寄る。
「戻ったわよン♡ダーリン……おかえりのア・レ・は?」
「……飯」
「あ〜ン♡照れ屋さんね♡」
エリザは嬉しそうに壁に掛けてあったフリルのエプロンを手に取り、身につけた。
「すぐ用意するわね〜」
ヒロはノアの顔をチラリと横目に盗み見た。
感情はなく人形みたいに見えた。
「失礼するよ」
アルヴァルトが靴を脱ぎ、部屋に入っていく。
「お、おい!」
当然のようにリビングのソファに座る。
「人の家だぞ!?」
エリザがヒロの背中に手を置いた。
背骨の上を指で上下になぞる。
「どうぞ、ゆっくり寛いでねン♡」
耳元でねっとりと声を出す。
ヒロはゾクリと身震いした。
「ひえぇっ!……レ、レオン行くぞ!」
レオンは眉を寄せた。
動かないノアの肩を軽く叩くと、二人は先にサイラスのいる部屋に向かった。
テレビの前で胡座をかくサイラスはニュース番組をぼーっと眺める。
アルヴァルトが横から声をかけた。
「サイラス、久しぶりだね」
サイラスの肩がビクッと動いた。
「その声は……アル?」
サイラスは何かを探るようにテーブルの上に手を置く。
アルヴァルトはテレビ台に乗った眼鏡を手に取るとサイラスに手渡した。
カチャッと眼鏡を装着する。
「アルヴァルト……久しいな」
「いや!今まで見えてなかったのかよ!」
ヒロは思わず突っ込んだ。
サイラスは眉を寄せヒロを見つめた。
「なんだ?このイキがいいのは……」
「君の息子の主人だよ」
アルヴァルトは和やかに答えた。
サイラスは怪訝そうにヒロを舐め回すように見つめる。
「まあまあだな」
「……なんだよ。それ」
サイラスはポケットからタバコを出し、火をつけた。
アルヴァルトは眉を寄せ、小さく息を吐いた。
「私への嫌がらせかな?」
「……悪いな」
サイラスはニヤニヤと煙を吐き出す。
そして、そのまま玄関に視線を動かす。
サイラスの表情からは笑みが消える。
口からタバコがポトリと落ちた。
絨毯が丸く焦げつく。
煙は一筋に天井に向かって伸びていた。
「……エリアス」
眼鏡の奥の瞳には、メイド服が映っていた。




