可愛い子には暴漢を差し向けろ
ガラスのテーブルに並ぶ面々は入れ直した紅茶で雑談を繰り広げていた。
その横でヒロの説教は続いていた。
床に正座するノアとレオン。
「──だからな!いいか!」
「うん」
軽い返事。
ヒロは大きなため息を吐くと天井を見上げた。
これが説教終了の合図だった。
ノアは慣れたように立ち上がると椅子に座り、紅茶を啜った。
レオンは足が痺れ、小さく呻き声をあげながら床に置き去りにされた。
ノアはティーカップを下ろす。
カチャと金属の音。
「……そういうわけで次の作戦を伝えるよ」
マキシムが立ち上がる。
「どう言うわけだよ!」
「お前らの説教でこっちはずっと待ってたんだぞ!」
ヒロはマキシムにジェスチャーで手を合わせた。
「悪い。長くなったよな」
ステラは焼き菓子に手を伸ばし、ポリッと齧る。
「いつもよりは短いんじゃない?」
「……いつもやってんのかよ」
マキシムは頭をガシガシと掻きむしった。
ユーミルは静かに口を開く。
「次の作戦というけど……ノア。君はサイラスの奪い返したいものを理解しているの?」
「……僕ではないってことは確かだね」
静まる部屋。
ヒロが小さく息を吐いた。
「……やっぱり、お前がサイラスの子供なのかよ」
「あれ?義父さんから聞いたんじゃないの?」
ノアは少しだけ目を大きくしてアルヴァルトに視線をうつす。
アルヴァルトはニコリと微笑む。
「まだ言っていないよ」
「……うっ」
「サイラスが君の英才教育を申し出たところまで、だね」
「……さいあくだ」
レオンがフラフラと立ち上がる。
壁に手をつき、足先を引き摺る。
「ノア、無理に話す必要はない!」
ハルトは口角を上げるとレオンに近づく。
「最強の男が弱体化してんじゃん」
「……なんだっ!やめろ……」
ハルトはレオンの足先を軽く踏む。
レオンの呻き声が響いた。
ヒロはノアに向き合う。
「……殺すより惨いことってなにされたんだよ」
「殺すより惨い?」
ノアは不思議そうに首を傾げる。
「アルヴァルトがそう言ってたぞ」
ノアはアルヴァルトを見た。
そして、クスッと笑った。
「それは言い過ぎでは?」
「いや、それ程のことをしてしまった……私は後悔しているよ」
アルヴァルトは椅子から立ち上がり、ノアへ向かう。
手を伸ばし、ノアの金色の髪に指を通した。
そっと金色の髪に唇をつけた。
「大袈裟だなあ」
ノアは眉を下げて笑った。
「別に大したことじゃないよ」
ノアは頬杖をつきティーカップを覗くように視線を落とす。
「二人は英才教育の最終試験として僕を暴漢に誘拐させ、襲わせた」
「はぁ?」
「そのまま受け渡す予定だったんだよ。そうすれば実母にも言い訳が立つからね」
「いや、立たねえだろ」
「そう?……合理的だよ」
ヒロはアルヴァルトを睨みつけた。
「お前、最低じゃねえか!」
「……ああ。英才教育を受けたものならば簡単に対処出来るはずだった」
「……はず、だった?」
「その子供は暴漢を殺さなかった。私達が想像していた以上にその子供は優しすぎたんだ」
「それって……」
「結果的にサイラスにとって刺激の強い光景となってしまったんだ」
ノアはティーカップを覗く。
「サイラスは暴漢を撃った後、僕にも銃を向けた」
「……撃たれたのか」
ノアは首を左右に振る。
「そのまま出て行ったよ。それきり」
ノアは小さく息を吐いた。
「だから僕は取り戻す対象じゃない」




